山田あかねの一喜一憂日記

心に引っかかるテーマは前後の見境なく取材に行きます。映画、テレビ、本つくってます。

やさしい犬

昨日、やさしい顔をした犬を見かけた。
犬はたいてい優しい顔をしているけれど、そいつはとりわけ、優しい顔をしていた。
かなりの老犬で、毛はまだら、大きな鼻はまっしろで、ぎょろっとした目はやや曇っていた。
けれども、長いしっぽをふりながら、その優しい犬は、小さな子猫を抱えていたのである。

うちの犬などは、猫を見かけるとすぐに追いかけ回すけれど、優しい犬は、そのやっぱり、ぼろぼろの子猫をまるで自分の子供みたいに優しく、下でゆっくりなめてころがしていた。

たぶん、どこかでまぎれた子猫をみつけたんだろう。
野性が失われた、東京の雑多な風景のなかでも、こんな偶然はある。

優しい犬は、子猫を転がしながら、大きなあくびをしたり、首輪の下を気持ちよさそうにかいたりしていた。
優しい犬はたぶん、オスで、母犬ではない。それでもそんなことがあるのだ。

優しい犬とぼろぼろの子猫のまえに、もっていたクロワッサンをおいた。
優しい犬は、子猫とわけあって食べていた。
ずっと見ていたかったけれど、私には、行かなければいけないところがあって、優しい犬にさよならした。

あの犬と子猫がずっと仲良く、誰からもいじわるされないで、生きて行けたらいいなあ、と思う。