山田あかねの一喜一憂日記

心に引っかかるテーマは前後の見境なく取材に行きます。映画、テレビ、本つくってます。

宗教とレンアイ

渋谷で映画「神童」を見る。ピアノに天賦の才をもつ少女と、彼女を見守る普通のピアニストの青年との物語・・と言えばいいのかな。天才であることとはどんな気分なのだろうか。うまく想像できない。ちぃっとも、これぽっちも天才じゃないから。とほほ。

最近、ミシェル・ウエルベックの「素粒子」を読んでいるんですけど、すごい。かつてものすごく衝撃を受けた記憶だけが残っていて、映画になったのに、見に行けないうちに終わってしまい、その上、DVDにもなっていないので、とりあえず本を読んだ次第。感動したはずなのに、ストーリーを全然覚えてなくて、あらたに感激しております。一冊で二度もあらたに感動できるなんて安上がり。

で、「素粒子」を読んでいて、しみじみ、ひとはなにかを信じないと生きていきにくいものであり、宗教の存在がうすまってしまった、1945年以降、結局のところ、ひとは次に「なに」を信じるべきかで右往左往していると思った。そのことが、腑に落ちていった。まあ、ここ最近、日本でもそうだけど、宗教に変わるものとしてもっとも信じられたのは、「恋愛」ってやつでしょうね。おなじみ、ロマンチックラブイデオロギー。私もかなりの年月、この宗教の絶大なる信奉者だった。しかし、最近、ミョーにさめてしまって、レンアイって結局のところ、性欲のなせるわざでしかないのではないか・・と思うようになった。(なんだ、みんな知って得たの?)。

恋愛と呼ぶとなんだかかっこいい、すてきなもののように思えるけど、ストレートに性欲と呼んだらどうなんだろう。先日、インターネットラジオで、精神科医の香山リカさんが、「うつ病」が増えているけど、ほんとうの鬱病のひとは少なくて、鬱病という言葉があるから病気が生まれている・・というようなことを仰っていた。もっとへんなネーミングだったら、鬱病患者は減るにちがいないと言っていた。森喜朗シンドロームって名前だったら、(症状は同じでも)、確実に患者数は減るであろうと。(なぜ、森喜朗なのか私にはわかんないけど)。

で。恋愛もね、同じかもね。ここらへんをストレートに書いているのが、作家の岩井志麻子さんかもしれない。恋愛とは性欲である、と。

で、日本は格差社会になっているけど、その格差を直視せずにすむシステムができてしまっていると香山さんはいう。100円ショップやファーストフード、ネットカフェなどによって、安いお金でも、「なんとなく」満足できるようにできていると。自分が底辺にいるってことから眼をそらすことができると。ほう、なるほどそうなのかと思った。

一方で、メディアもそれを後押しする。「お金なんてなくても愛があれば大丈夫」という魔法の言葉を繰り返し流すことで、「お金がない」ことと「愛のあるなし」は実は無関係なのに、あたかも、愛がお金のないことを棚上げにしてくれるように錯覚させる物語が数多く取引されている。そして、事実、そういうものが受ける。

「ほら、やっぱり愛なのよ」とか「好きなひとに会いたくなりました」的な感想を引き出すことで、そのひとが抱えている問題から眼をそらすことに成功している。いや、本当はみんな気づいているのかもしれない。愛がすべてなわけがなく、恋愛なんてしょせん性欲のなせるわざであり、(純愛ドラマのヒロインはみんななぜ、美女なのか)、どうにもできないことを。

だから、現実を直視するのを、ホント少しだけ止めてほしいと思っているのかもしれない。小説「素粒子」はその逆をいく。現実をもっと見ろ。自分の心のなかをもっと見ろと。

「素粒子」の主人公はふたりいて、詩人・小説家になりそこなった国語教師のブリュノとノーベル賞ものの研究者・ミッシェルの異父兄弟。主にブリュノの主観で書かれているけど、このひとは、恋愛というより、ほとんどの行動が性欲によって、決まっているという人物。妻にも息子にも特別な愛情を感じていないように描かれている。悲しくなるほど正直にね。

現在、三分の二くらいまでしか読んでいないので、このブリュノがどうなっていくのか、前に読んだはずなのに全然思い出せないので、「宗教なき時代の救い」への答え(もし、あるとすれば)がなにになるか、まだ、わからず、わくわくどきどきしながら読んでおります。

宗教に変わるものとして、恋愛、家族愛、などのほかに大きなテーマは「お金」だよね。名誉ってやつは下落しちゃったからね。まあ、莫大な資産があれば、たいていの恋愛は手に入るでしょう。ちまたの物語が安売りする「愛」はじつは簡単にお金に負けるからね。「愛が一番大事」と大声で言えば、お金が儲かるというからくりを知っているひとたちが、眼をつぶり、耳を塞ぎながら、愛をテーマにしたものを売り続けている。

というわけで、今週末は今年始まって以来の3日連続お休みなので、映画行ったり、本読んだりできてうれしいです。うれしい