山田あかねの一喜一憂日記

心に引っかかるテーマは前後の見境なく取材に行きます。映画、テレビ、本つくってます。

「わが闇」

今日は、下北沢で、ナイロン100℃の「わが闇」を見た。(作・ケラリーノ・サンドロビッチ)

結論から先に。すごい面白かった。感激した。ここのところ、不穏な空気のなかで生活していて、精神状態芳しくなかった。ので、今日の芝居も3時間以上あるときいて、耐えられるかなーと少し不安だった。が、時間をまったく感じさせなかった。もっと見ていたかったくらい。(この先、ネタバレありです)。

舞台は、地方都市に暮らす、結構売れてる純文学の作家の自宅である。これだけでも、自分にとってはかなり惹かれる内容である。作家である男には三人の娘がいる。最初は、娘たちがまだ子供のころの、作家とその妻の理由のわからないいざこざの描写から始まる。家庭はめちゃくちゃだが、そんななか、長女が12歳で作家デビューして、売れちゃったりする。(笑)。その後、作家は愛人を作り、妻の仲は悪化し、妻は自死する。

物語はさらに数年後に飛ぶ。作家は愛人に逃げられ、長女はすっかり作家として、独り立ちし、次女は結婚し、三女は女優になっている。ここでもいろいろな事件が起こる。作家のドキュメンタリーを撮るために、映画監督が同居する。これを岡田義徳が演じていて、たいへんかっこいい。このひとは、チョン・ウシンさんの舞台でも見てるけど、舞台映えして、声も通るし、立ち姿も美しいし、大変すてき。後ろの座席の女子が、「かっこいい」って思わず、つぶやいたけど、同感、同感。

この家には、ドキュメンタリーの監督の他、中学生みたいで上司の顔色ばかり見ている編集者などが出入りしている。自分も映像業界、出版業界などで仕事しているので、細かいネタがなんともひとごととは思えなくて、失笑あり、胸を打たれるシーンあり。

岡田義徳さん演じる、ドキュメンタリーの監督がいい。泣ける。「いい作品撮りたい」といって、ほんとにマジに頑張っている一方で、生活はどうやらめちゃくちゃらしい。ギャンブルやら映画制作やらによる借金一億近くあって、好きでもない女プロデューサーのヒモやって、それでも、映画だけは撮りたいんだって言う。「自分の生活と自分の映画は関係ない」って。うわー、せつないよー。演じているひとがかっこいいせいか、自分も長く演出生活のせいか、たいへん深く彼に思い入れしてしまった。

そんな彼の作品は、「お金になる」とわかったとたんに、口を出してくる製作委員会なるものが現れ、真面目なドキュメンタリーの企画だったのが、お笑いありのミュージカルにしてくれと頼まれたりする。主演は小島よしおで!と。そうじゃなきゃ、中止!と言われる。

笑えない。

世間のひとは、「そんなめちゃくちゃなことあるの?」と思うかもしれない。それは、フランス料理屋をやっていると、やって来た客にコースの途中で、「いいからトンカツ作れ」と言われるようなものだ。いや、もちろん、トンカツの材料もあるから、作れなくはない。料理人だから、作れと言われれば作る。でも、最初にいったはずだ、ここはフランス料理屋ですよって。すると、言うのだ、「トンカツのが売れるんだよ」「誰が金払ってると思うんだ!!作らないなら、帰るから、金は払わん」みたいな。(笑)。

ケラさんは映画の監督もやっているから、この手のネタが辛らつで新鮮で、たいへんおかしい。けらさんのブログでは、笑いの量が少なめと書いてあったけど、充分笑うところは笑った。じんわりくるところもいっぱいあったし。

3時間15分の芝居が終わると、それまで自分を包んでいたどんよりした空気が消えていた。やっぱり芸術の力ってすごいなー。ほんとに救われてしまった。死ぬほど落ちていても、芝居を見れば、治るということ。これまでも小説や映画の力で、生き延びさしてもらってきたんだんなーと毎度のことのように気づく。そして、さっぱりする。細かいことはいいよ、もう。自分もなんかちゃんと書けばいいんだし。自分の書いたもので、少しでも、「ほっ」としてもらえるひとがいたら、それはものすごい幸せだし。そういうことを思いながら、笑顔になって、下北沢の雑踏を歩きました。よいもの見せてもらいました。