山田あかねの一喜一憂日記

心に引っかかるテーマは前後の見境なく取材に行きます。映画、テレビ、本つくってます。

隙のない作品。

今日は、DVDで「クラッシュ」を見ました。

アメリカの人種差別を描いた傑作です。これで三回目かな。全部のセリフがテーマにつながっていて、まったく無駄がない。脚本のお手本のよう。それでいて、流れに緩急があり、ドラマチックなシーンが盛り込まれているんだけど、リアリティがある。一度見始めると、結末がわかっていても、目が離せなくなってしまう。

これが制作されてから、3年くらいたって、アメリカには黒人の大統領が生まれたのだなあと思うと、なおさら感慨深い。もし、リメークするなら、確実に、このことは盛り込まれるんじゃないだろうか。

この映画のなかで、一番好きな登場人物は、成功したテレビドラマの監督(黒人)。知的で複雑なキャラクターだ。成功するために、納得できないことも飲んできた…過去が想像される。というか、今でも、納得できないことがあっても、おとなしくすることで自分の立場を守るのだ。こう書くと卑怯なひとのようにも見えるけど、そうじゃない。(少なくとも自分にはそうは思えない)。正義や正論を振りかざしても、なにも変わらず、傷つくだけとわかっているなら、もっと賢いやり方があるはず…。それに対して、後ろ髪を引かれるような気持ちがあったとしても。

例えば、彼は、撮影中に、白人の俳優から、黒人の俳優の言葉使いについて注意される。「もっと黒人らしい発音をさせたほうがいいんじゃないか」というようことを言われる。一瞬、彼は抵抗しようとするが、諦めて受け入れる。定着しているイメージをさらに強化しようとさせられるわけだ。これは演出家としてはきついと思うけど、そうしなければ、自分の場所も奪われる…可能性がある。

「クラッシュ」のなかで、観客は、このような、ささいな、でも、実は重大ないらだちを繰り返し、丁寧に見せられていく。この積み重ねの巧みさ。そして爆発する瞬間。

黒人のドラマ監督は妻にこう言われる。「あなたが黒人だってこと、まわりのみんなにあらためて気づかれたくないんでしょ?」非常に秀逸なセリフだと思う。彼は普段、名誉白人として、黒人であることなど気にされない場所で働いているのだ。そこは一見平等で、彼は実力でそれを成し遂げた。しかし、この妻のセリフからわかることは、それがどれくらい、もろいものかがわかってしまう。

一度失敗すると、「ほら、見たことか」と言われてしまうのだ。どこまで行っても。

この引きずり下ろされる恐怖というのは、自分もやや実感できる。若い頃は、「女のディレクター」というレッテルがあったので、失敗すると、「やっぱりなー」と言われるのが怖かった。一方で、女であることでもらえる仕事もあったのだ。アンビバレンツ。

そんなことを考えつつ、「クラッシュ」久しぶりに見ても、すごくよくできた作品だった。