山田あかねの一喜一憂日記

心に引っかかるテーマは前後の見境なく取材に行きます。映画、テレビ、本つくってます。

チェコの映画。

映画「英国王給仕人に乾杯!」を見て来ました。

ベルリン映画際などで高い評価を得ているチェコの監督の作品です。1963年に、刑務所から出所してくる給仕人の物語。刑務所といったって、なにか具体的な犯罪を犯したわけではない。彼はチェコに生まれ、レストランの給仕だった。ひょんなことから高級娼館の給仕になり、さらにいろんな偶然が重なり、ホテルの経営者になる。時代は第二次世界大戦からチェコが社会主義革命によって変わっていく時代。文字通り、時代に翻弄され、ドイツ人の女性と結婚したり、彼女はナチの軍人だったり、が、戦死したり、が、彼女の知恵によって、ホテルの経営ができたり、が、それが原因で社会主義に政権がかわったとき、投獄され、15年近く服役することになる。

物語は出所するところから始まり、国境近くの荒廃した村にたどり着いた主人公は、自分の人生を回想し始める。どうして、今、彼はここにいるか。その経緯がナレーションと回想によって、綴られていく。ナレーションと回想というのは、映画にとって、とても危険なものである。ナレーションで説明しすぎることは嫌われるし、回想劇というのも、評価されにくい。

が、この映画はそれを堂々と全編にわたって見せている。むしろ、回想の内容が主といっていい。現在の彼にはさほどの物語もない。廃墟を整理して住めるようにし、変人の隣人と仲良くなる。隣人のうちのひとりの女性にほのかな思いを寄せるけど、特に発展はなく、隣人は引っ越してしまう。主人公は、たったひとりで、廃墟に暮らし続ける。

数奇な運命に翻弄される過去に比べて、彼の現在は、あまりになにもない。平和と言えば言えるけど。それを淡々と綴った作品だった。全体的にユーモアがブラックなので、好みだけど、ちょっとだれるところもあったかな。少し寝てしまった…。

が、最後になにも起こらないままに、主人公が現在を受け入れて、犬とヤギと平和に暮らしていく感じは、なんか良かった。政治に翻弄されたひとなんだけど、結局、彼自身はなにもそこなわれていないような感じ…それがなんともたくましいと思った。妻を亡くしているけど、それさえもどこか、「しようがないな」という感じで、センチメンタルなものをいっさい排除している。そこがすがすがしかった。

戦争物ってつい、お涙頂戴になるし、愛が世界を救う的な希望を描きがち。そういのを拒否している感じが好みだった。

いろいろやることがあって、一日中、あっちこっち行ったので、疲れてしまって、映画館でふと寝てしまったことが悔やまれる。