山田あかねの一喜一憂日記

心に引っかかるテーマは前後の見境なく取材に行きます。映画、テレビ、本つくってます。

ポツドール「愛の渦」

映画「すべては海になる」エキストラ引き続き、募集中です。

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以下は、ふつうの日記です。

映画の撮影準備中であるが、劇団ポツドールの「愛の渦」@シアタートップスを見て来た。
初めてポツドールの芝居を見たときの衝撃もすごかったけど、今回は、その完成度の高さにあらためてびっくりした。月並みな言い方だけど、芝居が終わってもしばらく立ちあがれなかった。が実際は、シアタートップスは狭いので、すぐに立ち上がって劇場を出たけど。

舞台は、高級マンションの一室で繰り広げられる、乱交パーティーのようなものである。インターネットで応募してきた見知らぬ男女各4名が夜の11時から朝の5時まで、一室で過ごす…という物語。

(以下、ネタばれあります)。

参加者には、イケメン風のフリーター、妻子持ちの普通のサラリーマン、工場勤務のさえない男、ひきこもりっぽいニートの4名。女子は、かわいい系の普通のOL,保母さん、女子大生、そして、あきらかにプロっぽいひとの4名である。店長が説明をする。ここに集まったのは、セックスが好きでしようがないひとたちだ。それを堪能するために集まったのだと。(もちろん、避妊具を使って下さいとか、女子の嫌がることはやめてくださいなどの説明もある)。

このようにして、見ず知らずの男女が、乱交を始めるのである。最初はものすごくぎこちない。敬語を使いあったり、どうでもいいような世間話をしたりする。が、一組が始めてしまうと、雪崩を起こすように、他にもやり始めるひとが出てくる。こうして、相手を変えたり、なんだりで、欲望のままに時間が過ぎていく。

途中に、こういう場所ならではの、告白があったり、極端なエロ話があったり、赤裸々なけんかがあったりする。さらに、8人がうちとけたあと、奇妙なカップルが参加してきたりして、この場所の意味、ここで行われていることの意味が、深く問われる。もちろん、説明的、解説的なセリフはいっさいない。すべては超リアルな会話の応酬で続く。ただひとつさえ、象徴的なセリフはない。ここらへんの脚本づくりの手腕には、参った…!のひとこと。

とても常識的なひとが見たら、気分が悪くなるほどの、セックスばかり出てくるお話だ。しかも、エロくも美しくもない。ただそこにあるセックス…という感じ。とにかくとことんリアルである。

しかし、舞台の途中何度か、人間における救いってこういう瞬間じゃないのかな…とか、このひとたちが求めているもの…もちろんセックスによる快楽なんだけど、なぜ、彼らは、「愛」ではなく、「セックス」を求めに来ているのだろうかということがわかってくる。セックスは、愛の薄っぺらさをはからずも映し出してしまう、光なのだ。

この場所では、男女みんな、バスタオル一枚になる。その下は裸だ。普段、何をしているか、そういうことから解放され、ただの「やりたい」ひとになる。その自由さ。だからこそ、知らずに、それぞれが自分はどんなひとなのかを告白し始めるのかもしれない。そのことが強くわかるのは、朝になり、それぞれが、服を身につけたあとだ。サラリーマンはスーツを着て、フリーターは、ジャージを着て、工員は工員風の服を着る。派手なOLと保母さん、地味な女子大生…それぞれの服=制服に戻るとき、彼らの社会性も戻ってくる。それがいかに不自由なのかが照らしだされるのだ。服を着た彼らはさっきまで、あんなに楽しんでいた「同じ仲間」にはちっとも見えない。ばらばらの世界のばらばらの住人に見える。

もしかして、昨夜の「裸のつきあい」こそ、自由で自然なつきあいだったんじゃないか…と思えてくるのだ。服を着た彼らには、それぞれの物語がある。職業や、容姿の優劣や学歴なんかも背負っている。「愛」というのが、案外この“服”に支配されている部分がある。それが、単なる快楽を分かち合う仲間…というところまで、微分していくと、ひとはもっと自然にひとを愛せる…大切に思えるのではないだろうか。

ふりかえると、神聖さを帯びる瞬間があるのだ。乱交のあとに、裸の男女が集うとき、その場所、乱交パーティーの会場になっている、マンションの一室の居間が、聖なる場所の空気を帯びる。自分にはそう見えた。そこでは、彼らがほっとしたため息をつく音が聞こえる。彼らが自由を感じた瞬間がわたしには見えた。彼らに張り付いていたもの、一見それは、かなえられない性欲に見えるけど、だけじゃなくて、彼らをしばっていた何かが、エクスタシーとともに、消えていくのだ。

あ、象徴的なセリフもあった。フリーターの、いかにも遊び人風の男が、「一日の80%はエロいことを考えている。だから、射精のあとの清々した時間がずっと続いたら、東大とか合格できる」(セリフの詳細はちがうけど、だいたいこんな内容)みたいなことを言う。

ちょっとずれたかもしれないけど、真夜中の彼らがなにかから解放された瞬間がとても貴重なものに見えた。だから、彼らは「もう一度会おう」みたいなことを最後には言い合うのだ。(実際には、叶わないんだけど…)。

うーすごい。

…といろいろ書いてしまった。とにかく、すばらしい舞台だった。ちょっと落ち込んだほど。それはつまり、こんなにすごい作品、自分は書けないよ、と思ったから。(まあ、自分のことはさておき。自分は自分の信じる世界を作るしかないしね…)。

ポツドール「愛の渦」大絶賛です。(これ、岸田戯曲賞とってものの再演かと思っていたけど、全然ちがう話だった。それもすごくお得感がありました)。