山田あかねの一喜一憂日記

心に引っかかるテーマは前後の見境なく取材に行きます。映画、テレビ、本つくってます。

「わが家の歴史」の新しさ。

夜、フジテレビの「わが家の歴史」を見ました。

昨日の分は見てないし、頭の5分くらい見逃してしまったけど、そのあとは、しっかりちゃんと見ました。それで、一番、画期的だなあと思ったことについて、書きます。

昭和とはどんな時代だったのでしょう…みたいなことを、市井の一家を舞台にして描く…そんなに驚くような企画ではないと思います。こういうお茶の間ものって、昔のテレビドラマではよくあったし、向田邦子さんなんかが描く、「昭和の家族」っていうのは、テレビの生んだひとつのスタイルだと思うし、そこから、良くも悪くも「日本人の家族像」って案外できたかもしれない。

頑固で一徹で、でも、根は優しくて、妻には実は弱く、娘が嫁に行くときは泣く父親像…とか、実は一家の実権を握っている、働き者で、冷静な母親像とか、やんちゃな兄と、ひたむきな妹とか、まあ、そんな感じ。で、それはそれで、ソフィスティケイトされたドラマとして、素晴らしいと思うんだけど、今日のドラマも、たたずまいとしては、非常に似ている。茶の間でみんなでご飯食べたり、紅白見て、年越しをしたりしているし。家族礼賛っぽい。

けれども、実はこのドラマ、家族礼賛を装いつつ、その家族が、いわゆる、正統派家族じゃないのだ。ここが画期的。

つまり、主人公であるところの柴崎コウ演じる女性が、「二号さん」であることだ。こういう家族ドラマって、基本の家族は、非常に典型的な家族の場合がテレビドラマの場合、一般的なんじゃないか。ドラマの進行中に、家族の誰かが妻のあるひとに恋をするとか、父なり母なりが、外に愛人を作るなどは、エピソードとしては、存在できても、主人公が二号さんである、というのは、なかったと思う。不倫のひとは、主役になれないはずだったのだ。テレビでは。そこが、とても斬新だし、思い切ったことをしたなあと思う。

だって、テレビというのは、実はもっとも保守的なメディアなので、(なぜなら、非常にたくさんのひとが見ているから)、正式な結婚制度に則っていないひとを主人公にするのは冒険なのだ。それを嫌うひとがとても多いので、視聴率がとれない可能性と、文句の来る可能性が高いので、企画の時点で、「そこをなんとか…普通の設定で…」ってことになる。

(もちろん、あえて、不倫や愛人ものをとりあげる場合は別だけど、その場合は、「特殊なもの」として扱われる)。

こんな、普通のたたずまいをしていながら、主人公が二号さんってすごい。よくやったなーと思った。なので、表面的には、「家族っていいなーすばらしいなあ」と見せておきつつ、その家族の絆は、法的には成立していないし、そんなもの、どーでもよくね?って感じがするのだ。そして、柴崎さん演じる二号さんが、「二号さん」と聞いて、想像しがちな、「日陰の、エロスの香りのする女性」ではなく、まるで、しっかり者のお母さんの雰囲気なのだ。ぼんやり見ていると気づかないけど、実は、結構、大胆なお話なのではないかしら。

西田敏行演じるお父さんも、すっかり、「日本のオヤジ像」を崩しにかかっている。権威的じゃないし、事業には失敗しちゃうし、ミーハーだし。でも、憎めない感じの魅力ある人物だ。

考えてみると、昭和の持っていた典型的家族イメージって、ゆっくり破壊されているのかもしれない。現実ではとっくに失われていたのに、物語の世界では必死にそのイメージを描いていたけど、そろそろ、それじゃあ、間に合わなくなったのかもしれないなー。

ソフトバンクのCMを見たときも同じことを感じたんだよなあ。お父さんは、性格は「昭和のオヤジ」像だけど、姿形は、「犬!」になっているし、お兄ちゃんは、黒人になっていた。母と娘は変わらないけど、オス類は外見が変わっていたのだ。そして、それは大受けした。

話戻すと、だから、「わが家の歴史」は、非常に画期的な家族ドラマだと思った。三谷幸喜さんの脚本だから、もっと笑いに傾斜しているのかと思ったら、すごくオーソドックスな作りだったので、始めは、その根本的な構造の新しさに気づかなかった。大泉洋さん演じる男性が、転々と職を変えながら、いろんな場所に出てくるしかけが面白いなーと思ってたくらいで、優等生みたいなドラマかな…と思ったくらい。でも、ちがってた。見終わって、じんわり初めて気づいた。さすが、やるなーフジテレビ。

もうひとつ気に入ったところは、松本潤と長澤まさみのカップルが親に反対されて、1度は結婚を諦めるけど、二人で逃げちゃうところ。昭和の設定であるから、多くの昭和時代のカップルは、好きなひとを、胸に秘めたまま、親の勧める相手と見合いで結婚するもんだ。そして、悲恋を胸に秘めて生きていくのだ…先日見た、「遠まわりの雨」みたいにさ。

でも、ふたりは、そうしなかった。駆け落ち(っていうのか)してたし。なので、このドラマ、「家族、すばらしい!」ふりをしつつ、既成の家族像に、NO!をつきつけている気がして、そこがとても気に入ったのでした。

いつも、家族崩壊を願っているわけでもないのですが、リアルなものが好きなので、どうも。