山田あかねの一喜一憂日記

テレビディレクターをやりながら、小説書いてます。映画も撮りました。脚本なども書いてます。 本、買って下さいね。

こんなになっても生きていていい。

今日は、東大に行って、上野千鶴子さんにお会いしました。

自分の小説「すべては海になる」が文庫になるとき、解説を書いていただいたので、1度、お会いしてお礼を言いたかったのです。(とても魅力的な解説で、すごく嬉しかったから)。

文庫が出版されたのは去年の11月のことですから、今更、なんで?遅すぎ…と思うかもしれませんが、なかなか心の準備ができなかったのでした。

昨年はとにかく映画のことで頭がいっぱいだったし、年末から公開にかけては宣伝のために動いたり、テレビの仕事もしたり、おまけに交通事故にあったりと、慌ただしく、映画が公開されてからも、興行成績や評判に一喜一憂し、続けて、海外の映画祭に行ったりと、ずーっとばたばたしていました。

いや、そんなのこっちの事情です。相手のことを考えたら、お礼にすぐにでも伺うべきでしょう。でも、できなかった。心の準備ができなかったのです。心の準備もないままに、形式だけで伺うのもよくないかな…と。

で、映画も一段落して、DVDも発売になり、やっとほっとしたので、お邪魔しました。最初はとても緊張しました。だって、あの上野千鶴子さんですよ。怒られたらどーしようとか…一応考えました。が、ひとことご挨拶をしてからは、ぱーっと気持ちが楽になりました。気さくでユーモラスで、気配りのある、りんとした雰囲気のある方でした。

最近、「ひとりの午後に」というエッセイ集を読んでいたのですが、そのエッセイを読んだときに感じたままの、やさしいまなざしを持っていらっしゃる。フェミニストというと、女性の権利を主張する…といったような印象が強いけれど、その底流にあるのは、弱きもの、虐げられた者への理解なんですよね。

「ひとりの午後に」のなかに、とてもはっとした部分があります。「ボケ」というタイトルのエッセイなのですが、高齢者用の施設を訪ねた時のことが書いてあります。認知症を患っている患者さんは、生気を失い、ただぼーっとしているだけに見える。それを見て、ある訪問者が

「こんなになっても、生きていなければならないものですか」と尋ねたそうです。それに対して、ケアの専門家が
「ごらんなさい、食事どきになると、あのお年寄りはちゃんと口から食べているでしょう。食欲があるということは、生きる力があるということです。死はだれにでも必ず来ます。その日が来るまで、しっかり生きていてもらうというのが、わたしたちのしごとです」と答えたそうです。

それについて、上野さんは、「いろんな施設を見て歩いて感じるのは、こんなになっても生きていてもいいな、生かしてもらってもいいな、という安心感である」と書いています。

はっとしました。

自分も取材などで、介護施設に何度か行ったことがあります。その時、「こんなになっても、生きていかないといけないのだろうか」と質問をしたひとと同じ気持ちになりました。というより、自分だったら、こんな風になったら、いっそ死にたい…と思った。

けど、それはとても陳腐な感想です。なにも始まらない。なにも変わらない。

その時、「こんなになっても生きていてもいいな…」って文章に書けること、そう考えられるってことのすごさです。もちろん、その後には、「ただし、わたしが信頼できるケアを提供していると思えるひとたちのあいだで」と続きます。

「こんなになってまで、生きている意味はなにか?」なんて疑問を立てることは、実は簡単。自分は当事者ではないという、上からの目線がある。だけど、その視点からだと、先がない。答えはない。自分だったら、いっそ死にたい…などともらすのは、今、自分がその場所にいないからだし、本当にその場所に行ったときのことを想像していないからだと思う。(わたしを含めて)

けれども、上野さんは、「こんなになっても、生きていてもいいな」と書く。それは、たくさんの介護をする人たちに希望を与えるセリフだと思う。そういう言葉によって、介護をするひとやその家族が、はっと気づく。どんな状態でも生きている意味がないなんてことはないんだってことに気づく。

うまく伝わっているでしょうか。こういう視点を提示できることのすごさなんです、わたしが感動しているのは。
絶対弱者の味方であること。勝手な想像ですが、そういう視点があるからこそのフェミニズムなんじゃないかと思った次第です。だって、女性はずっと弱い立場だったからね。

そんなわけで、今日はとても充実した時間を過ごしました。なんか、最近、女性の大先輩の方たちから、勇気や励ましをもらうことが多くなった。少し前まで、年上の女性の話を聞く機会があまりなかった。それは単純に、自分の目線が♂ばかり見ていたからだし、♂のひとと過ごす時間が長かったからだ。

けれども、最近、女性たちと話すとなんて楽しいんだろうってやっとわかってきた。特に先行世代の、厳しい時代を生き抜いてきたひとたちは、たくましくて、強くて優しい。

なんか、生きてみないとわからんことっていっぱいあるなー。

今日、わたしが味わったのようなリアル上野千鶴子さんを体験したい方、上野千鶴子さんのライブ映像がココでで出会えますよー。

「五十歳からの挑戦」!

いわさきちひろ美術館での講演の様子です。とても聞き応えのある講演なのでぜひ。