昨日は、大倉山ドキュメンタリー映画祭にて、「あしがらさん」を見た。
あしがらさんとは、新宿で野宿をしていた男性の名前(愛称)である。「犬と猫と人間と」の監督、飯田基晴さんの作品ということで、見にいった。
飯田監督は、新宿で路上生活者の支援ボランティアをしていたことがきっかけで、ひとりの浮浪者と出会い、彼を主人公に撮影を始める。
1998年から始まって、4年近く、あしがらさん(昭和7年生まれ)を追いかけて行く。
初めは、近づきがたかったあしがらさんが、飯田さんに心を許し始め、路上生活をやめて、入院したり、また、路上に戻ったりしながら、映画のラストでは、笑顔を取り戻していく…という構成になっている。
これだけ書くと、支援者側の記録映像…というイメージが浮かび、それは、「ドキュメンタリー映画」としてはどうなんだろう…って思うかもしれない。
少なくとも自分は思う。
素人のひとが撮った、だらだらと長い、退屈な作品なのではないか、あるいは、「こんな社会に誰がした!」という告発系の作品なんじゃないか…と。
でも、どっちも違う。
まず、一級のエンターテイメントに仕上がっている。見始めると片時も退屈しない、面白い作品なのだ。
路上生活者に関心がなくても、いつしか、その世界に引き込まれ、監督とあしがらさんの距離が縮まるように、見ているこっち側もあしがらさんのことが心配になり、親近感を抱くようになる。
どうしてこんなにうまいんだろう。
うまい…っていうのは、撮影も編集もって意味。
初監督作品とは思えない、完成度の高さ。
具体的に言えば、必要な映像はクリアに撮れているし、音もはっきりとわかりやすい。ただ、漠然と撮っていたら、こんな風に貴重なカットはおさめられないのだ。プロのカメラマン、音声さんがいてもいつだって、難しいものだ。なのに…。
しかも、この作品、最初からドキュメンタリーを撮ろう!という意志で始めたものじゃなくて、発表のあてもなかったという。おお。
4年近く撮影した…ということは素材(録画したもの)も厖大のはずだ。そのなかから、どういうシーンを選び、どういう構成で見せていくかっていうのは、非常なる手腕を必要とする。
けど、編集もまた、うまいんだ。
正直、私は、路上生活者にあまり関心がなく、強く見たいという対象ではなかった。でも。ずっとみとれていた。映画の世界に入りこんでいた。
これって、なんだろう。
監督の取材対象に対する愛情なんだろうか。もって生まれた才能か。
「犬と猫と人間と」の時にも思ったけど、一貫して、「悪者は誰か?」「問題はなにか?」というスタンスじゃない。あるがままの姿を撮っていく。それを並べていく。けど、非常に伝わるものがある。
あしがらさんを通して、路上に生きるひとの気持ちに少し触れたように思えるし、彼らを支援するボランティア、区役所のひと、医者、介護施設のひとたち…などなどが、固有名詞として立ち上がってくるのだ。
昨日まで、「路上生活者」と、ひとくくりにしていた対象が、「あしがらさん」という名前を持ったひととして浮かび上がってくる。それは、ボランティア、行政、介護ヘルパーも同じ。みんな、名前をもった、ひとりひとりなのである。
ここらへんの迫り方が、ホント、とても自然なのに、うまい。押しつけがましくなく、するりと見られる。
うー深く静かに感動してしまう。
こういう作品を見ると、決められた予算、期間を忠実に守って、さっくり見られる作品をテレビで作ってきた自分を責めたくなってくる。あっちが本当なんじゃないのか…って。
あ…こういうことを書き出すととめどないので、この辺にして、とにかく、素晴らしい作品だった。
04年に完成した作品だけど、今も各地で上映会などが続けられているそうだ。確かに色あせない作品だと思う。