山田あかねの一喜一憂日記

心に引っかかるテーマは前後の見境なく取材に行きます。映画、テレビ、本つくってます。

「これから、フェミニズムの話をしよう」

今日は、上野千鶴子さんの東大早期退職にともなっての「特別講義」が行われる予定だった。

当社では、撮影のお手伝いをすることになっていたが、中止になったので、家でおとなしくしている。

それで、漠然と考えたことを書きます。

講義のタイトルは「不惑のフェミニズム」だった。(…だったっていうと、終わりみたいだけど、これからの計画もあるようなので、誤解なきよう)

不惑って40歳。つまり、生まれてから40歳です…という意味だ。

世界には、哲学や医学や文学やいろいろあるけど、ギリシア哲学を例に出すまでもなく、哲学なんて、もう千年単位の歴史のある「学問」だ。

そのなかで、フェミニズムは40年。たった40年。本当に歴史の浅い、つい、この間始まったばかりのものなんだなーと思う。(日本の場合です)

フェミニズムになるまえは、ウーマンリブなどと呼ばれていた。70年代、女性の権利拡張をめざして、草の根運動のようなものが起こり、それが、フェミニズムに成長していく。

この場合、「成長」という言葉がいいのかわからない。ウーマンリブは「運動」だけど、フェミニズムは「思想」なんですね。

「女のひとを差別しないでくださーい」と叫んでいたのが、「女のひとはこの部分で不当に差別されているのでは…と考える考え方」としてまとまりをもっていく。

そして、次に登場するのが、「女性学」。「思想」から「学問」になるわけです。

それが、東京大学という日本を代表する大学で、「学問」として認められた…というのは、画期的な進化だったと思う。ここまで来るのに40年かかった…というわけだ。

けど、最近、「フェミニズム」って言葉にアレルギーを持っているひとも多いようだ。

男性はもとより、女性でも、「いまさら…?」「私は差別された覚えはないわ」という態度をとるひともいる。

以前、このブログで、映画「ノルウエイの森」について書いた時、「ロマンチックラブイデオロギー」という社会学用語(主に女性学)を使った。説明のために、「女性学で、使われる言葉です」と書いたところ、「なんだ、女性学か…」という侮蔑ともとれる文脈で語るひともいた。

でも、その感覚…わからなくもない。

映画でも文学でも、フェミ的視点で批評すると、それだけで、聞く耳を持たなくなるひともいるし、「そっちのひとなのね」(=フェミニスト)と烙印を押されることも多いからだ。

烙印を押されてしまうと、「あいつの意見は聞かなくていい」ということになってしまう。「差別だ!」って叫んでる面倒くさいひと…というカテゴリーに入れられかねない。

これはなかなかリスキーなことだ。

ロサンゼルスといういろんな人種が暮らす町で起こる交通事故を題材に、人種差別を描いた映画「クラッシュ」(ポール・ハギス監督)のなかに、とても印象的なシーンがある。

主人公のひとり、黒人のテレビディレクターが、「自分は、黒人であることに気づかれないようにやってきた」みたいなことを言うのだ。

この意味わかりますか。

黒人であることは、一目瞭然、誰にだってわかる。けど、「気づかれないようにする」ってどういうことか。

これって、多くの女性は実感しているんじゃないかな。いや、女性の多い職場や最近のひとはわからないか。

自分は、わかる。なぜなら、私も「女」のディレクターであることを気づかれないようにしてきたからだ。

自分がテレビ業界に入ったばかりのころは、女性のディレクターは、200人近い制作会社で2名しかいなかった。プロデューサーも2名。

そこで、ディレクターになっていくには、時に「女性の視点」を売りにするんだけど、普段は、「こいつは女だけど、俺たち、男とあんまり変わらないよなー」と思わせるコツが必要なのだった。

女だけど、『面倒くさくない」「差別だー」などと言い出しそうにない、「雰囲気」を漂わせておかないと、たちまち、居場所を失うのであった。

だから、心のなかは常に分裂していたように思う。その気持ちが、「クラッシュ」で黒人のテレビディレクターがつぶやく、「黒人と気づかれないようにする」になる。

彼ら(=白人、男)のまるで仲間みたいに振る舞うことが大切なのだ。全然、違和感を持ってないように。

そういう過去の歴史があって、今がある。

テレビ業界も現場で働く女性は増えたし、出版界にも多い。けど、相変わらず、最終決定を下す立場にいるのは、ほとんどが、男性であることはあまり変わってない。

彼らの逆鱗に触れないようにやらないと、なかなか生き延びることは難しい。

一番いいのは、彼らの考え方を内在化することである。あ…ちょっと理屈っぽいですね。つまり、彼らと同じ感覚を持ってそれに疑いを持たないことだ。それが一番簡単。らくちん。

「中年男と少女もしくは若い女性の恋愛」とか、作っていると一番楽に生きられる。おじさん、自己投影するから企画が通りやすいのね。

「美女と野獣」は歓迎だけど、その逆はありえない…とかね。

もちろん、「イケメン」重視の逆襲はあるけどね…笑。

…という話はともかく。

そういうわけで、フェミニズム40年の歴史を振り返ることにとても興味があった。

そういう声が広く届くようになったこともよいことだし、「もう、それは終わったこと」と心底思っているひとがいたとしても、「自分には関係ないし、実感ない」という若いコがいたとしても、歴史を知ることは大事だと思うのだった。

震災と放射能漏れで、大騒ぎになっている日、こんなことを考えました。