山田あかねの一喜一憂日記

心に引っかかるテーマは前後の見境なく取材に行きます。映画、テレビ、本つくってます。

映画「ブラックスワン」

そんなわけで、話題作の「ブラックスワン」を見て来ました。

見る前に前評判を聞きすぎていて、いわく、「すごくエロチック」「女性をその気にさせるシーンがある」など、かなり官能的な展開らしいこと、また、一方で、傑作の呼び声高く、芸術的な作品らしいこと…そんな評判を聞いていました。

まず、ひとつめの「エロチック」かどうか。

すみません、自分には、どこがそんなに?…と思うほど、その意味では普通でした。もっともっと激しいシーンを期待(…笑!)しておりました。

誰かの感想に、「上品なおばさまは、途中で席を立った」とありましたから、「バレエ映画と思ってやってきた、上品な方が眉をひそめるようなシーン」があるに違いないとわくわくしてましたが、そんなことはなかったです。

あれかな、やっぱり、女性が女性を…みたいなシーンにびっくりするってことなんでしょうか。日頃、「Lの世界」とか見ている自分にとっては、「なんだ、このひと、レズビアンだったんだ-」って思うくらいで、(結果的にはその見方は誤解となるのですが…)そんなにどっきりしませんでした。

また、誰かの感想には。女性を官能的な気分にさせるからデートにお薦めとあったけど、それも?マークでした。逆でしょ。これを見たら、デートより大事なものがあるって気づいてしまうんじゃないかしら。

ということで、ちゃんとした感想を書くと、とてもよくできた作品でした。芸術的…傑作…というより、近代的な作品というか、リアルな作品だと思ったんです。

ストーリーもなにもかもちがうけど、ある種の女性版「ファイト・クラブ」かもしれません。

ざっくり、ストーリーをおさらいすると…(ネタばれないようにできるだけ気をつけて書きますが)、主人公は、ニューヨークにあるバレエ団に在籍するバレリーナ・ニナ(ナタリー・ポートマン)。

元・バレリーナのシングルマザーに育てられたニナは、母親の熱心な教育によって、バレエ一筋の優等生タイプ。

そのバレエ団で、「白鳥の湖」をやることになり、主役の座をめぐって、熾烈な闘いが始まる…というもの。

バレエ「白鳥の湖」のオリジナル・ストーリーをまずは説明します。(これは繰り返し演じられているので、今更、これをネタばれと言わないでくださいね。というか、このストーリーは映画の序盤でそうそうに確認されます)

悪魔ロットバルトによって、とある姫は、白鳥に姿を変えられてしまう。彼女を元の人間の姿に戻すには、彼女を真剣に愛してくれる男と結ばれないといけない。しかも、その男は、彼女以外に愛を誓ったことのない男でないといけない。

このような運命を背負った白鳥は、ある夜、湖のほとりで王子と知りあう。姫は夜の間だけ、人間の姿に戻っている。王子は姫を愛するようになる。

翌日、王子の城で舞踏会が開かれ、白鳥姫にそっくりな姫がやってくる。これは実は黒鳥(悪魔の娘)なんだけど、王子は、あまりに白鳥の元姫に似ているから、間違えて、黒鳥に愛をちかってしまう。

そこで、「実は黒鳥でした!」となり、後悔する王子。でも、もう遅い。白鳥を救えるのは、誰にも愛を誓ったことのない男でないとダメだから。

その夜、王子は湖に行き、白鳥に会うけれど、王子が黒鳥に愛を誓ったと知った白鳥は、身を投げて死んでしまう。

あーなんて悲しいお話…というものです。

これは王子をめぐる、白鳥と黒鳥の闘いのお話でもあるわけです。

では、映画はどうだろう。「ブラックスワン」と題しているように、白鳥ではなく、黒鳥に焦点を当てているんでしょうか。

そう、テーマは、つまり、「黒鳥とはなにか?」ってことになる。

主人公のニナは白鳥役をゲットするために、さまざまな困難を乗り越えないといけない。まずは、鑑賞しすぎる母親、誘惑をしかけてくる演出家、そして、白鳥の座を狙うエロチックなバレリーナ・リリー。

ニナは、彼らから逃げ切って、白鳥を演じることができるのか…。というところにサスペンスの要素がある。逆転につぐ逆転、ずらしによるずらし、ミスリードをいくつもしかけてきて、いったい、ニナが闘っているものはなんだろう…と思わせる。

元の「白鳥の湖」は、王子との愛をめぐる、白鳥と黒鳥のライバルものであった。そこで求められるのは永遠の愛…つまり、男。

でもさ、現代のヒロインは、永遠の愛とか男よりももっとほしいものがあるんだな。これがとても、リアルだと思った。

ヒロインのニナが一番ほしいのは、白鳥の役であり、完璧に踊ることなんですね。それこそが、彼女にとってもっともほしいもの。男や愛なんかじゃないんだ。

ね、今っぽいでしょー。だって、ニューヨークですよ。

これがわかったとき、あーいい作品だなーおとぎ話で終わってないなーって思えて、この作品が好きになりました。

しかし、彼女が一番ほしいものを手に入れるために、さっき書いたような邪魔が次々と入る。母親も演出家も同僚のバレリーナも、味方なのか敵なのかわからない。

ニナはどんどん追い詰められていく。果たして、ニナは、「白鳥の湖」の主役を踊ることができるのか。そして、真の敵…つまり、黒鳥(=悪魔)とはなんなのか。

もちろん、映画のなかにその答えは描かれています。書きたいけど、書かずにおきます。

その答え、黒鳥とはなにか?がこの映画のテーマであり、それがとても現代的である…ということです。そこが気に入りました。

…答えを知りたい方はどうぞ、劇場で。

いや、あくまで、これは私の解釈ですから、間違っているかもしれません。私はそう見ました。

黒鳥とななにか?の答えを知りたい方は、メールでもいただければ、私なりの解釈を返信します。

見ればわかると思うのですけれどもね。では。