山田あかねの一喜一憂日記

心に引っかかるテーマは前後の見境なく取材に行きます。映画、テレビ、本つくってます。

映画「メランコリア」

本当は、ロマン・ポランスキーの「おとなのけんか」を見に行ったのに、上映開始10分前で満席。

おそるべし、映画の日。

あきらめきれずに近くでやっていた、「メランコリア」を見た。こっちもかなり混んでたけど。

ラース・フォン・トリアー監督は、ドグマと呼ばれる、即興や俳優の気持ちによる、ドキュメンタリーみたいな演出方法で知られる方。

「ダンサー・イン・ザ・ダーク」も「アンチ・クライスト」もあまり好みではありませんが、この方の演出法を学んだという、スザンネ・ビア監督の作品は好きであります。

「幸せな孤独」とか「未来を生きる君たちへ」とかね。

俳優さんたちの芝居がすごくリアルだから。

それと、「メランコリア」というタイトルにも一応ひかれまして。

メランコリアって憂鬱って意味ですよね。はい、自分にとってもっとも親しい感情かもしれません。憂鬱。

しょっちゅう、あるいは、人生の殆どの時間を、メランコリアに支配されております。

ロシア語でいうと、タスカーですね。チャイコフスキーもタスカーに取り憑かれていました。

二葉亭四迷はこれを、「ふさぎの虫」と翻訳したそうですが、その話はさておき。

タイトル通り、見ているだけで、憂鬱になってくるようなお話です。見ているうちに息苦しくなり、具合悪くなりそうでした。

映画は前半のジャスティンと後半のクレアに分かれておりまして、ジャスティンとクレアは、姉妹です。ジャスティンが妹。

前半は、ジャスティンの結婚式。ゴルフ場に面した豪華なお城みたいな会場で、イケメン…でも、ちょっとバカみたいな花婿と結婚するゴージャスな美女のお話。

と書くと、ハッピーな物語に思えますが、全然。

結婚式なのに、人生最悪の日、みたいな感じです。ひとえにそれは、花嫁のジャスティンがメランコリアー憂鬱に取り憑かれるからです。

憂鬱…かどうかわからないけど、このジャスティン、ちょっと頭おかしいひとです。頭おかしいというか、メンヘラっていうんでしょうか、精神的に極度に不安定な女性です。

でも、美人で巨乳で仕事できるらしく、親戚がリッチという好条件のもと、イケメンと結婚となるわけですが、ジャスティンの奇行が続き、結婚式はめちゃくちゃに。

見ていて痛々しい反面、うっとおしいなーとも思うし、わかる、わかる、とも思います。

なに不自由ないはずなのに、なぜか取り憑かれてしまう、落ち込み気分みたいなもの。何もする気が起きず、寝ていたいと思ったり、急にはしゃいだり。それでもずっと続く、抜け出せないもの。

それを上手に描いています。ジャスティンの母親を、かつての美人女優シャーロット・ランプリングが演じていて、これがまた、いたいたしいの。

「結婚式なんてくだらない。結婚なんて無意味」みたいなことを、披露宴のスピーチで言ったりする。まわりはみんな着飾っているのに、パジャマで出席。

クルクルパーみたいなひとが、わんさか出てきます。

出てくるひとたちはみんな気狂いなのに、舞台背景はとてつもなく美しい。中世のお城みたいな建物とそれを取り囲む緑豊かな自然。毛並みのいい馬たち。

用意された料理やシャンパンもゴージャス。衣装も美しい。

こんなに美しいものに囲まれても、ひとは狂うときは狂う、というか、美しいものは人を癒すことはできないのかしら…という絶望にとりつかれそうなほど。

結婚式というもっともハッピーな日に、もっとも不似合いな感情、メランコリアをぶつけてきたその趣向はなかなかあっぱれでした。結婚って、だってメランコリアの温床かもしれないものね。

そんなわけで、第2部。妹の結婚式をけなげに支えていた姉・クレアの物語。

クレアの物語というより、同じメランコリアでも、別のメランコリアのお話。

メランコリアとは、巨大な惑星で、地球に接近してきている。これが地球と衝突すれば、地球は破壊されて、人類…だけじゃなく、すべての生命は終わる、という大事件。

突然、設定がSFめく。その巨大惑星、メランコリアが地球に衝突するのか、それとも、この気狂いファミリーの妄想なのか、よくわからない。

とにかく、それまで、ジャスティンの心の病であったものが、実体化して、巨大な惑星になって、ぶつかってくる…という象徴なんでしょうか。

帰宅後、「メランコリア」という惑星が本当に存在するかどうか、調べてしまいました。もしや…と思ってね。

でも、そんな星はなかった。つまり、虚構です。

前半はとことんリアルに作っておきながら、その同じ設定に、とんでもなく科学的なフィクションを載せていくわけです。おーさすが、ただもんじゃないです、トリアー監督。

そんなわけで、かなり息苦しい2時間でした。

今にも、憂鬱という名の星に正面衝突されるような、すでに、その星が発する謎の電波で、憂鬱にとりつかれるような。

憂鬱にとりつかれる…とはどのようなことなのか、体験できる作品でした。

芝居はみなさん、とてつもなくリアルで、強烈でした。その部分は学びたいなーと思いました。

とにかく、息苦しかった。