山田あかねの一喜一憂日記

心に引っかかるテーマは前後の見境なく取材に行きます。映画、テレビ、本つくってます。

泣いた・・・。

銀座にて、「トランスアメリカ」を見る。

いやあ、泣きました。って、たぶん、泣く映画ではないのでしょうが、自分はこの手の映画だとかなりの確率で泣いてしまうのね。内容は、性同一性障害の男性が性転換の手術を受ける直前に、息子がいることがわかり、(しかもNYの警察に捕まっている)、彼を保釈し、家族の元に届けようとしたことから、ニューヨーク→ロサンゼルスまでのアメリカ横断(トランスアメリカ)の旅にでる、というもの。
(もちろん、このトランスは、トランスジェンダーをかけている)

この手の「自分には息子がいた!」的なものは、「ブロークンフラワーズ」というのがあるけど、正直、「トランスアメリカ」のがずっとよかった。だって最後まで問題を引き受けているから。曖昧な結末っていうのは、一見かっこいいけど、納得させる結末を作るほうが、作品としては上でしょう。ありきたりな結末を避けるあまり、曖昧な結末を選択する・・ってやり方があるけど、(観客に判断を任せるという手法)けど、それは、結局、作り手の敗北のように思う。私はこう思う事よ!ときっちり作品では、やはり言ってほしいと思う。それが作るということではないかしら。

それはともかく、男性の場合、知らないうちに自分に子供がいて、しかも大きくなり、しかも問題を抱えていた・・ということが起こりうるけど、女性はありえないよね。私も知らないうちに自分の子供が育っていたら、面白いかも・・こんなことを気軽に言うと、「子供を育てるのはすっごく大変なんだから、くだらないこと言うな」って全国母の会のひとから狙撃されるので、とりあえず取り消して・・ってことではなく、女性でも実はありうるのね。

女性版の傑作に、イギリス映画「秘密と嘘」があったわ。かつて強姦されて、妊娠したときの子供が自分に会いに来るって話だった。「秘密と嘘」も傑作だったけど、今日は、「トランスアメリカ」の話。

まず、主人公のたたずまいにしびれた。ウエイトレスと電話による営業をやりながら、つつましく暮らし、女になろうとしてる。迷いや痛みもいろいろあったろうけど(それは後半、家族からの話で明らかにされるけど)、今は、自分を信じて生きてる。そんな彼女が、クスリと売春で生き長らえている息子を見て、彼の力になろうと努力する。 この息子がまた美男なんだ。芝居もいいし。2人の旅は、それぞれの抱えたマイナスの確認の旅になっていくんだけど、息子がだんだん心を開いていくところがいいし、中年のゲイ(っていいうのかな)の女装は決してビジュアル的には美しくないはずなのに、主人公の彼女が輝くように美しく見えてくるんだよね。それは息子の目にも同じだと思う。

「美は相対的なものだよ」ってセリフがでてくるけど、大きく頷く瞬間だった。ヒトが生きていくことの複雑さや性にまつわる繊細さについて、丁寧に丁寧に描かれている。主人公が実家にたどり着くシーンではほんと、泣いてしまった。誰もがある意味ぶっ壊れてて、でも、じゃ、壊れてないってなにさ?本当の男とか、女とかってなにさ?という気持ちにさせる。

n人のひとには、n個の性がある・・という感動的な言葉を思い出した。「クラッシュ」以来の心しびれる作品。映画館を出るときには最高にハッピーな気持ちになっていた。だってさ、こんな映画があるんだもん、人生捨てたもんじゃないし、私もこういう作品を書くのだ、撮るのだと思ったら、スキップしたくなったよ。8月15日にはキツイ事件があったけど、めげないでいきたいなーと。とてもとても励まされる映画だった。