山田あかねの一喜一憂日記

心に引っかかるテーマは前後の見境なく取材に行きます。映画、テレビ、本つくってます。

映画「ワンダーラスト」

今日は、昔からお世話になっている、大プロデューサーとランチ。映画のことを相談させてもらう。この方は、○十年まえ、なんの経験もない自分に連ドラ撮らせてくれた恩人であった。(会談の内容は極秘…でもないけど)。

夜、渋谷で映画ワンダーラストを見る。昨日も日記に書いたように、音楽界の巨匠マドンナの初監督作である。つい、見に行ってしまった。東京では、渋谷でしかやっていなくて、土曜日初日で、日曜の最終回で観客はまばらであった。おお、マドンナってもう、そういう存在なのか…。ちと、さみしいが。

内容はマドンナらしい、主張いっぱい、ロックいっぱい、エロいっぱいの賑やかな作品。バレリーナを夢見ながら、お金がないからストリッパーとして働くホリー、アフリカの子供たちを救う活動をしたいけどかなわず、薬局で働きながら、窃盗の趣味のあるジャネット、バンドをやりながら、SMの調教師として働くAKの3人が主人公。ロンドンで夢見る若者物語…といったところ。

AK演じる、ユージン・ハッツがかっこいいのなんのって。彼は、ウクライナ出身で「ゴーゴル・ボルデロ」というバンドのボーカル。バンド名のゴーゴルって、「死せる魂」などで知られる小説家ゴーゴリからとっているんだって。ゴーゴリもウクライナ出身だそう。なんか、これだけでも結構しびれる。

で、このAKがさ、のっけからカメラ目線でしゃべりまくる。ナレーションとかモノローグではない。あきらかに観客に語りかけちゃっている。これって、映画では禁じ手ではなかった?テレビドラマだって、カメラ目線でしゃべるのはなかなか勇気がいるぞ。がしかし、マドンナ監督はひるむことなく、AKにカメラ目線で彼の(マドンナの?)哲学をしゃべらせつづける。この内容がまた、理屈っぽいと言えばいえるし、説明しすぎとも言えるけど、わたしは好きだった。マドンナって小説家なのか…と思うほど、「語り」好きなんだ。

ストーリーは荒削りだけど、ワンシーンごとが面白い。主人公の3人以外に出てくるひとたちがそれぞれ味があって。エロを描いて、ちっともエロくない。ひとの性欲を笑い飛ばすような受け入れるようなふところの広さがある。さすがマドンナである。邦題の「ワンダーラスト」はワンダー=驚異的な、ラスト=欲望ということだけど、原題は「FILTH AND WISDOM」で堕落と賢さみたいな意味かな。

「ワンダーラスト」ってタイトルより、ポスターに使われていた「マドンナの堕落論」のがわかりやすいのになーと思った。堕落を描いているようでいて、彼らはちっとも堕落していないように見える。(少なくともわたしには)。ストリップをしたり、盗みをしたり、SMの仕事をすることは充分堕落じゃないか…!とPTA的な感じで言われたら、すみません…と言うしかないけど…。

映画のなかで、AKが言うセリフに答えがある。自分はいかにダメ人間か話したあとで、でも、自分は必ず天国へ行く…みたいなことを言う。それはなぜか、「自分は真実しか話さないから」。ううん、なるほど。これってすごくマドンナっぽいよなあ。自分のラスト(欲望)に忠実で、それを決して「LOVE]とか言い換えたりしないで来たから。

ということで手放しで褒めてしまった。長大なPVっぽいとも言えるけど、映画も自由なのだから、なんでもありじゃねーの?という気がした。もう、「映画っぽい」「テレビっぽい」「PVっぽい」という評価は意味を持たなくなっているのかもしれない。小説もしかり。

ユージン・ハッツのCD、買って帰りましたことよ。ジプシーパンクっつうそうな。ロシアの香りがして、良いです。非常に元気になりました。