山田あかねの一喜一憂日記

心に引っかかるテーマは前後の見境なく取材に行きます。映画、テレビ、本つくってます。

映画「第九地区」

今日は、打ち合わせのあと、渋谷で、映画「第九地区」を見ました。

いや~好きなタイプの映画だった。面白かった。「アバター」より俄然、こっちが好き。

好きなところを書いていこう。あ、ネタばれは当然ありますので、よろしく。

まず、設定と発想が好き。

『宇宙船は、マンハッタンでもワシントンでもシカゴでもなく、南アフリカのヨハネスブルグにやって来た』って主旨のナレーションが入っていたけど、まさに、南アフリカを舞台に選ぶという設定が、皮肉たっぷりで面白い。なんたって、南アフリカは「人種差別」で名高い国だったから。

そこを舞台に、宇宙人差別の問題をまず、ぶちあげる。さらに、宇宙人は、かっこ悪いを通りこして、「気持ち悪い」ところまで、外見をめちゃくちゃにデザインされている。「未知との遭遇」で出会った宇宙人、「アバター」に出てくる宇宙人(と考えていいんだよね?)など、いろいろいるけど、ぶっちぎり、「気持ち悪い」し、「イケてない」。

で、当然のごとく、隔離、差別という話になる。それを描くシーンの笑えることと言ったら…!劇場ではほとんどのひとは笑ってなかったけど、「宇宙人入店禁止」の看板など、ブラックユーモアが効いている。宇宙人との共存って、こんな感じがもしれないと思わせる妙なリアリティがあった。さらに、宇宙人の好物は、「ネコ缶
」って!ふざけるのもいい加減にしろ!って感じでおかしい。宇宙人、「エビ」とか呼ばれているし。

ほとんど、深夜のテレビの冗談番組の領域だ。うわー面白いなー、と感動して見てた。

そして、物語の展開も、ありがちな「宇宙人との闘い」ではなく、「宇宙人の移動」というなさけないミッションから始まる。なので、人間側の主人公も、「情けない」タイプ。映画って、「ごく普通のひとが、ヒーローになる」っていうのは、あるパターンだけど、この主人公、これまでの普通の主人公より、さらに情けなく、道義心にかけ、魅力がなく、さえない。役所に勤める小市民っぽい。絶対、ヒーローになれないタイプ。

なので、彼の行動はいちいち、納得できない。ヒーローだったら絶対やらない決断の連続。物語が進んでもなかなか、ヒーローに成長しない。そこが妙にリアル。

主人公は、宇宙人の持っていた液体を浴びたせいで(特定はされていないけど)、体が段々宇宙人に変化していく。宇宙人の武器は、宇宙人にしか使えない、とか、つまり、武器は、その使い手にシンクロするってところは、わーエヴァンゲリオンだー!と思った。(きっと多くのひとがそう指摘しているだろう)。

宇宙人たちのエピソードも、辛らつだ。スラムに暮らす宇宙人たちをさして、「彼らは働きアリ」みたいなもの。指導者を失ったので、何もできない…なんて、コメントが入る。同じ宇宙人でも、リーダータイプと、働きアリ(働きバチだったら失礼)がいる…という認識。「働きアリ」タイプは、命令されないと、日々、だらだらと遊んで暮らすだけだなんて、辛らつな比喩だ。

このように、辛らつな批評的視線で物語はすごい早さで進む。辛らつさを理解しなくても、アクションとして充分、ドキドキしながら、見ることができる。そして、体が宇宙人化していく主人公は、人間からも追われるようになり、第九地区に逃げ込む。

ここら辺から終盤にかけての、主人公の人間を助ける、「宇宙人の父子もの」は、ちょっとだけ、ありがちな展開だった。ここまで、辛らつにやってきたのに、もう少し、斬新なアイデア、なかったのかなあ。

(この宇宙人の親子が、賢そうで、冷静で、好感もてるというか、この映画のなかで、一番「いいひと」たちなんだけどね)

宇宙人の親子愛に打たれた主人公が、自分が盾になって、宇宙人親子を母船に帰そうとする。う~ん、これも、平凡な感じ。もっとも、多くの観客を集めようと思ったら、こういう展開を入れるというのは、常套だし、(自分もマスの仕事のときは、やっておりますけれども…)、だから、そうしたい気持ちも充分わかるけど、でも、だからこそ、もっと新しい、新鮮な、誰も見たことのない、展開によって、宇宙人を母船に返してほしかったなー。

あるいは、もっと別の結末。まだ、誰も見たことのないような、「宇宙人観」を見せてほしかった。宇宙人の父と子供の愛情の物語……息子は父を思い、父は息子のために頑張る…なんて、普通だよー。

この終盤に向けての部分で、もっとぶち抜いた展開を見せるのは、力量がいる仕事だ。誰もがびっくりする結末を作るには、ホントに大きな才能が必要だろう。壮大な世界観が必要。そして、それが成功する(受ける)確率はたいへん低い。それより、父子ものにまとめておいたほうが手堅い…というのが、ハリウッドの結論なんだろうか。

中途半端なアイデアより、慣れした親しんだ展開……そういうことかなあ。

とはいえ、設定といい、展開といい、面白かった。続編もきっとできるんだろうな、主人公、死んでなかったし。

そんなわけで、新鮮なアイデア満載で、とても刺激になる映画でした。

あー自分も、全力出して、新しいもの書かないとダメだ、意味がない…と強く強く思った。