山田あかねの一喜一憂日記

心に引っかかるテーマは前後の見境なく取材に行きます。映画、テレビ、本つくってます。

DVD「兼子」

懇意にしている渋谷昶子監督の作品、DVD「兼子」を見ました。

兼子とは、柳兼子さんという、日本歌曲の歌い手です。

民芸運動で著名な柳宗悦さんの妻でもありました。

いえ、正直、自分は全然知りませんでした。柳兼子という名前も、日本歌曲というジャンルも。

しかし!

最後まで見て、深く深く感じ入りました。

兼子さんは、明治25年の生まれ。初めは絵描きを目指したのですが、絵描きでは食べられない、女性ならなおさら…と知り、音楽なら、女でも身を立てられる…と知って、声楽を始めます。

明治生まれの女性ですよ。男女雇用機会均等法なんて、先の先の時代のお話です。

兼子は、自分の力で立って生きていこうと早くから決意するんです。

そして、日本歌曲に出会う。

日本歌曲…オペラを日本語で歌うような感じ(…あくまで、私の印象です。知らなかったので)の歌い手を目指します。

その後、柳宗悦と結婚、歌い手になったあと、四人の子供を生み育てながら、歌を磨くためにドイツに留学したりします。家事も怠らずに、歌い続け、夫を経済的にも助けます。

インタビューで、兼子の子供たちが、「母の働きがあったから、父は日本民芸館を作ることができた」みたいなことを言ってます。すごいです。偉いです。

その上、92歳で亡くなる二ヶ月前まで、歌い続け、弟子に歌を教え続けたのです。

DVDには、兼子が83歳、84歳の頃の「歌声」と、舞台で歌う姿が収録されています。

それが、ちっとも80代のひとの歌声とは思えない、力強さと美しさなんです。

日本歌曲というものに、まったく無知な自分でありますけど、並々ならぬ力量があることはわかります。

ゆるぎのない立ち姿。遠くまで響く、透明な歌声です。

この作品を撮った、渋谷監督もすでに70代の後半でありますが、今も現役で、ドキュメンタリーを作り続けています。すごいです、偉いです。

兼子のDVDのラストに、こんな言葉が出てきます。

「年をとると歌を歌えなくなる…といいますけど、歌えなくなるんじゃない。歌わなくなるんでしょ」

おお。

年齢をいいわけにしない…ということです。83歳、84歳の歌声がたくさん収録されているんですよ。それがちっとも古びることなく。

反省というか、力が湧きました。

自分なんて、まだまだだなと。

92歳まで現役だなんて。

しかも、淡々と続けていらしたようなんです。

いやー励まされました。そして、やっぱり、このような先達に出会うことは大事だなーと思うのです。

歴史は続いていくんです。

今、自分がここにあるのは、自分だけの結果ではない。

先行世代の方たちの努力によって、地ならしされた後を歩いているわけです。

そのようなことを思います。

もうすぐ、上野千鶴子さんが、東大を早期退職されます。それにあわせて、「特別講義」をされます。

上野さんもまた、自分の先行世代であり、世界を切り開いてきた方です。

なんかーみなさん、すごいんだな。でも、ちっともその「すごさ」を感じさせない、軽やかさがあるんです。

渋谷さんにしてもね。

そんなわけで、おのれも、そんな風に年を重ねたいと思うところです。

上野さんの講義については、次回、詳しく書きたいと思います。