山田あかねの一喜一憂日記

心に引っかかるテーマは前後の見境なく取材に行きます。映画、テレビ、本つくってます。

「Breaking Bad」再び

アメリカの人気テレビドラマ「Breaking Bad」に再びはまっているので、その話。

「Breaking Bad」はアメリカ南部のスラングで、「不良になる」みたいな意味らしい。ツイッターで教えてもらった。

主人公はごく普通の50歳の高校教師。この教師が、メス=合成麻薬づくりに手を染めていくお話だ。

普通だったら、高校教師が麻薬作りをするはずはない。やくざとか刑事とか、せいぜい、業界人など、麻薬の近くにいそうなひとならともかく。

けど、この「絶対やりそうもないひと」が麻薬作りをするからこそ、ドラマが盛り上がるわけですね。

普通のやくざが(やくざに普通も特別もあるのか、わからないけど)作るんだったら、ちーとも面白くないし、そんな発想、誰でもできる。

このドラマの素晴らしいところは、高校教師と麻薬作り…という結びつかない線を結びつけたところ。企画と脚本のセンスが光る。

けど、この「普通の高校教師」というのが実はくせものだ。ちっとも「普通」じゃないからだ。

…と書くと、日本だとよくある、元・ヤンキー、元・やくざ、実家がやくざ、など、元々裏社会に近い人だった…と想像しそうだけど、ノー。

では、bb(breaking badの略)の主人公の普通じゃないところをあげてみよう。

まず、彼は、元々ノーベル賞レベルの化学の研究をしていたひとである。彼の発見した物質によって、巨万の富を得たひともいるのだ…つまり、彼は普通の化学の教師ではなく、「天才的」な化学の知識と技術を持った男なのである。

さらに。

彼は、末期の肺がんにかかっている。これだけで、日本なら難病ものとして一本できるネタだ。

さらに。

彼は末期ガンで、18ヶ月の命と宣告されているのに、妻が妊娠中である。しかも、40歳という高齢である。これも充分、普通じゃない。

さらに。

彼の17歳の息子は、「脳性麻痺」を煩っている。自力で学校に通うことはできるが、足は不自由だし、言葉もやや不自由だ。これもまた、普通ではない。

さらに。

彼の妻の妹は、万引きの常習犯だし、その夫は、DEA=麻薬取り締まり捜査官なのだ。

こんなにたくさんの負荷というか、キャラクターを主人公に与えている。企画書だけで考えたら、「ちょっと載せ過ぎじゃないか」と思うくらい。

が。それがちっとも不自然じゃなく、ドラマが機能してる。

たぶん、それは、このドラマが、セリフや説明で見せるのではなく、すべて、登場人物の行動によって見せるものだからである。

彼の息子が脳性麻痺である…ことは、ごく自然に描かれている。特別、それを説明するシーンはなく、何気ない会話のなかで、言葉づかいの不自由を見せ、最初から松葉杖をついて登場させることで、「足が不自由」であることが自明のこととして、見せられる。

一事が万事そういう描き方である。

シナリオの定石では、主人公に負荷をかけろ、という。主人公が困れば困るほど、見ているものは物語に惹きつけられるからだ。

そういう意味では、このドラマはシナリオ作法の定石通り。主人公に化せられた、負荷がたくさんある。

だから、本当は善良な高校教師が、せっせと麻薬を作ることになってしまうのだ。

そこらへんが、うまいのね。

…ということで、毎晩、DVDを見ていて、ちょっと寝不足気味であります。

明日も午前注から、始動なので、今夜は諦めて寝ることにする。


早く見たいけど…。