山田あかねの一喜一憂日記

心に引っかかるテーマは前後の見境なく取材に行きます。映画、テレビ、本つくってます。

映画「別離」

イランの映画「別離」をやっと見ました。

ベルリン映画祭銀熊賞受賞で、傑作の呼び声高い作品。

同じ監督の前作「彼女が消えた浜辺」は、wowowで見ておりましたので、作風というのはわかったつもりでした。

イランの映画ってなかなか見る機会がないし、だいたい、イランってどんな生活をしてるのか、想像できないですよね。

でも、当たり前ですが、普通の生活があるわけです。

主人公は、たぶん、イランでは裕福な階級に属すると思われる30代くらいの夫婦。しかし、この夫婦は問題を抱えていて、ひとつは、夫の父親が、認知症をわずらっていること。

ます、ここで、おーどこの国も同じなんだーと思いますね。日本でも認知症が出てくる映画は増えつつありますが、ハリウッド映画だって、結構ある。

かの「猿の惑星ジェネシス」だって、コトの発端は、認知症なのですから。

で、イスラム文化圏でも認知症は起こっているわけです。つまり、宗教は関係ないということだな、認知症にとって。

(いや、ちょっと考えたら、当たり前ですが、しかし、脳や精神の病って、宗教や文化に左右されるのではないかとうっすらと思っていたので、それが、ばっちり、打ち砕かれました。病気はどこの世界に平等に降り注ぐんですね。)

そんなわけで、主人公夫妻のお父さんは認知症。これに困った奥さんは、11歳の娘を連れて、海外で暮らしたいと夫に提案。しかし、夫は、お父さんをおいて海外へ行くなんてもってのほか!ってことで、夫婦に亀裂が生じます。

妻はそんな夫にうんざりして、娘をおいたまま、実家に帰ってしまう。

しかし、そのまま放置するのではなく、義父の面倒を見る家政婦さんを雇うことに。

この家政婦さんがやってきたことから、トラブルが拡大していく…というお話です。

「家政婦さんによって、ドラマが進行する!」

これもまた、日本のテレビドラマだけじゃなかったんですねー。家政婦さん、ドラマのカギ、握ってます!

しかし、やっぱり決定的に違うのは、出てくるひとたちの信仰心のあつさです。

特に、問題のカギをにぎる、家政婦さんはとても、敬けんなムスリムなんです。(敬けんって言葉はムスリムにもつかっていいのでしょうか…)

認知症のおじいさんが、おもらしをしてしまい、お風呂にいれないといけなくなります。

しかし、ムスリムの女性である家政婦さんは、家族以外の男性の裸に触れることは罪なると思っていますから、いちいち僧侶に電話して相談します。許可をもらって初めて、お風呂にいれることができるんです。

この宗教心のあつさが、のちのちドラマをふくらませていくことになります。

そういう意味では、宗教的背景というのは、ドラマを盛り上げやすいんだなあとしみじみ思います。

というか、タブーがドラマを生む。

(もちろん、宗教心はドラマのためにあるわけではないので、このような視点は不謹慎ではありますが。)

この家政婦さんは妊娠しているわけですが、それも見た目ではなかなかわからないんです。というのは、長衣という体をすっぽり包む服を着ているからなんですね、この宗教心のあつい女性が身につけるものです。

認知症のおじいさんは、おもらしだけじゃなく、ほっておくとふらふらと外へ出て行ってしまったりする。ホントに世話のやけるおじいさんです。

あるとき、主人が部屋に戻ってみたら、おじいさんはベッドに手をしばられたまま、しかもベッドから落ちて倒れているという事態に…。しかも、家政婦はいない…。

ここから一挙に物語が進行します。

帰って来た家政婦を主人はどなりつけ、追い出そうとして、倒しています。その後、家政婦は流産を…。

なぜ、家政婦は部屋をあけたのか。

流産は誰の責任か。

など、謎が重なり、ホームドラマであるのに、サスペンスドラマのような緊張感で物語りが盛り上がっていきます。

さらに、家政婦の夫の暴力的な態度とか、家政婦の宗教心があついあまりの暴走とか、主人公の夫の頑固さとか、とにかく、「もうちょっと冷静になれないですかねー」と言いたくなるほど、話がまずい方向へ。

よおおくできた、ドラマでした。シナリオも秀逸。

しかしなー。やっぱり、宗教的タブーが効いてるんですよねー、要所要所で。

そういう意味では、ちょっとうらやましくなるほどです。作り手としてね。

だって、今の日本だともはや、「なんでもアリ」でしょう。

タブーがある意味ない。

その上、宗教心を強くもったひとを、「普通の人」として描くのがかなり難しい。

「別離」の家政婦さんは、宗教心はあついけれど、決して、狂信者ではない、善良なひとなんですよね。そんな善良なひとが、ストレートにあつい信仰心をもっているっていうのが、素直に描かれている。

日本で同じ設定にしたら、それがどんな宗教であれ、過剰に宗教にはまっている…という時点で、「普通のひと」として描くのが難しくなってしまう。

いまだに「踏み絵をふめない」ひとなんです、家政婦さんは。

…ということで、がっつりしたドラマでした。

が、正直にいうと、前半で少し寝てしまった箇所があって(それは内容がつまんなかったからではなく、ちょっと体調が悪かったことと、映像がドキュメンタリーのように動き回ることにすこし酩酊したのかもしれません)、なので、もう一度ちゃんと見ようと思っている次第です。

イランという国をちょっとは知れた気もして、新鮮で面白かったです。

こういう風に別世界の映画とかもっとどんどん入ってきたらいいよね。

少しはわかり合えるようになると思うし。