山田あかねの一喜一憂日記

心に引っかかるテーマは前後の見境なく取材に行きます。映画、テレビ、本つくってます。

「ニートの歩き方」

最近、「ニートの歩き方」という本を読んだけど、すごく面白かった。



っていうか、いろいろ考えてしまった。

きっかけは、CHIKIRINさんのブログで紹介されていたからだったんだけど、その時、読もうと思ったのは、この著者のphaさんが、「映画を見られない」と言っているからだった。

え?……映画、見られないってどういうこと?

人付き合いが苦手だったり、満員電車が嫌いでニートになり、ゲームをしたり、マンガや本を読んでだらだら過ごすことを無上の喜びとしている著者なのに、なんで、映画ダメなの?

そこにひっかかった。

本や映画に救いを見いだしてる自分としては、同じ仲間かと思っていたひとが「映画はダメ」って言われたのがショックで。それと、今の若い人にとってやっぱり映画は終わっていくメディアなのかと心配になって。

けれども、いったん、この本を読み始めたら、映画に関する心配はふっとんで、(映画が何故見られないかについてもちゃんと書いてあって、それについてはあらためて書くとして)、このphaさんの生き方に共感するというか、納得できるところがいっぱいあって、大げさにいうと、時代の変わり目みたいなものを感じた。

著者のphaさんは、京都大学出身で、いったんは会社に(どんな会社かは詳しくはわからない)就職するけれども、満員電車が嫌いだったり、朝早く起きるのが苦手だったり、そもそも、仕事が嫌いで、28歳で会社をやめて、33歳の現在まで、働かず、いわゆる「ニート」をしているひと。

で、ニートであることを悲観するのではなく、自分なりの前向き(って言っていいのかな)な選択として、今の暮らしぶりや考え方やこれからについて、簡潔で読みやすく、とても正直に書いてある。

ニートに関する本だけど、ある種の哲学書でもある。


まず、「働かざるもの喰うべからず」っていう言葉に疑問を持って、掘り下げていく。

「元々は、ソ連を作ったレーニンが新約聖書を引用したもので、働かない怠け者を批判するためのものではなく、働かずに労働者を搾取して肥え太っているブルジョアを攻撃するときに使われたもの」だという。

そうなんだ、知らなかった。

phaさんは、働かないことがそんなに悪いことのなのかって繰り返し問うていく。

確かに今の日本は高度資本主義になっていて、働いてお金を稼ぐというのが当然とされて、そのお金で自由を買うというか、いろんな権利を買うシステムになっている。お金こそが世界をまわしているもののようではある。これは先進国はみんな同じかな。

けどさ。

ホントにそう?という気持ちは徐々にいろんなところでいろんなひとが考え始めているような気がする。資本主義だけじゃ、もうままならない感じは、わりとある。

この本のなかに出てくる、メキシコの漁師のエピソードは、やっぱり、考えさせられる。

要約して、引用する。

メキシコの田舎町の海岸に小さなボートで漁師をしている男がいた。小さな網で魚をとっている。その魚はとても活きがいい。

それをみた、アメリカ人の旅行者が「すばらしい魚だね、どれくらいの時間、漁をしていたの」と尋ねた。

「そんなに長い時間じゃない」と漁師は答える。

旅行者はもっと長い時間漁をしたら、もっとたくさん魚が獲れるだろうという。

漁師は、自分と自分の家族が食べるにはこれくらいで充分だという。

旅行者が「あまった時間で何をするのか」と尋ねると、

「陽が高くなるまでゆっくり寝て、それから漁に出る。戻って来たら子供と遊んで、女房とシェスタして、夜になったら友達と一杯やってギターを弾いて、歌を歌って…これで一日は終わりだね」

すると、ハーバードビジネススクールでMBAを取得したという旅行者はこうアドバイスする。

「毎日もっと長い時間漁をして魚をとり、あまった分を売る。お金が貯まったら大きな漁船を買う。すると、漁獲高は上がり、儲けは増える。その儲けで漁船を二艘、三艘と増やしていく。やがて、大漁船団ができるまで。そしたら、仲介人に魚を売るのはやめて、自前の水産加工工場を作って、そこに魚を入れる。その頃、君はこのちっぽけな村を出て、メキシコシティに引っ越し、ロサンゼルス、ニューヨークへと進出していく。君はマンハッタンのオフィスビルから企業の指揮をとるんだ」

漁師は尋ねた、「それまでにどれくらいかかるのかね」

「20年、いやおそらく25年でそこまでいくね」
「それからどうなるの」
「それから?今度は株を売却して、君は億万長者になるのさ」
「それで?」
「そしたら、引退して、海岸近くの小さな村に住んで、陽が高くなるまでゆっくり寝て、日中は釣りをしたり、子供と遊んだり、奥さんとシェスタをして、夜になったら、友達と一杯やって、ギターを弾いて、歌を歌って過ごすんだ。どうだい、素晴らしいだろう」

ううむ。

著者のphaさんは、「この本はメキシコの漁師のように生きるための本だ」と結ぶ。

資本主義って、このエピソードに出てくる、自分が必要とする以上のものを作り出して売って、それでお金を得て、さらにそれを株にしてもっとお金を得る…ってことだ。

たしかにそうしないと、お金は儲からない。

が、そうして得たお金で何をするのかって。

そのお金を稼ぐために厖大に時間が失われて、お金を増やすことが目的になってしまったりする。それは本当に楽しいのかって話だ。

いや、もちろん、ビジネスの楽しさもあると思うし、小さな海岸でとれた「とびきり美味しい魚」をたくさんのひとに味わってもらいたい…という素直な思いもあるかもしれない。お金儲けだけじゃなくて。

でも、そこまでしなくても、「自分と自分の家族が食べていけるだけの魚があればいい」って考え方もあるよね。

それと、このphaさんは、「自分と自分の家族が食べていけるだけの魚」の分ほども働いてない。奥さんも子供もいない…笑。

けど、自分が直感的に「やだな」と思ったことはしないで、ずっと寝てたり、ゲームしてたりする。そして、そういう暮らしをまわしていくためのさまざまな工夫もしている。

「弱いものは集まると死ににくい」という言葉にもはっとさせられた。

Phaさんは、ギークハウスという、ゲームやマンガ好きのニートたちの集まるシェアハウスに住んでいて、ギークハウスそのものの企画などもやっている。

ひとりで引きこもっていると、大変なことも、仲間がいたら、いろいろ乗り切れる気がする。

phaさんは、インターネットを通じて、月数万円稼ぎ、足りないものはネット経由でもらったり、お金が必要なときはネット上でのカンパみたいなものでまかなったりしている。そんなにキャッシュがなくてもやっていけてる感じ。

仕事に対する思いや、家族、恋愛、セックスについてもすごく正直に語っていて、すがすがしいほど。

そうか、こんくらいゆるく考えてるひとたちが出てきているんだなって思ったら、なんだか楽しくなった。

でも、もしかして、ホントはこういう人たちは昔からいたんじゃないか、とも思う。だいぶ前にも「ダメ連」っていうのがあったと思うけど、戦後の日本は、「頑張っているひと」「ひと儲けしたひと」ばかりにフォーカスしてきたから、きっといたはずの「ゆるいひとたち」は特に注目されずに来たんだと思う。

けど、インターネットのおかげで、「頑張っているひと」「ひともうけした人」以外の姿もたくさんのひとに届くようになったのだと思う。この本だって、そもそもがブログ発だし。

前の日記に書いた「絶望の国の幸福な若者たち」もそうだけど、今の若い人々は、「そんなにお金なくても、幸せです」っていっせいに言い出したようにも思えてきた。

もう、オヤジ世代の「お金至上主義」いやなんですよー。だるいことしたくないんですよーって。

私は働くのは好きだし、仕事でも頑張るほうだけど、でも、冷静に考えると、自分の仕事は自分の好きな分野ばっかりだし。世間から見るとあんまりちゃんと働いていないのかもしれない。

ファッション以外でスーツとか着たことないし。

この本の後ろに、「ニートチェックシート」というのがある。

(そのまま、載せます)

□会社や学校に行くのつらい
□満員電車に耐えられない
□朝起きるのが苦手だ
□働かないことに後ろめたさはない
□一人でいるのが好きだ
□インターネットが生活の一部だ
□お金をかけずに没頭できる趣味を持っている
□貧乏はそれほど苦痛じゃない
□汚い環境でも生活できる
□家賃を払わずに住める場所がある
□体は丈夫だ
□料理は得意だ
□友人は多いほうだ
□実家が金持ちだ
□異性を口説くのが得意だ
□結婚したり子供を作ったりすることに興味がない

このなかで12コ以上イエスのひとは、ニートの素質があると言う。

ちなみにわたしは13コだった。りっぱなニートだ!

っていうか、この本に書いてあるようなことを実践して生きてきた結果がイマだったりする。

8年間、会社員だったけど、死ぬほど辛かった。テレビの制作会社なんて、ゆるゆるなのにそれでもつらかった。毎日行かないといけないし、なにより狭い人間関係が面倒で。

でも、あの8年間でテレビディレクターとしてフリーで稼ぐノウハウを身につけたから感謝はしてる。

その後はずっとフリーだし。テレビのいいところはたいてい3ヶ月くらいでひとつの仕事が終わり、次に移っていけるので、人間関係が煮詰まりにくいことと、服装は自由だし、朝も比較的おそいなど、ホント楽だった。

苦手なテーマの番組はやらなかったし。(だいたい、苦手なテーマのものをやるといい結果も得られず、ディレクターとして信頼を失うので、やらないほうがいいんだよね)

でもって、脈絡なく…というよりは、ひたすら「自分がやりたいから」という思いだけで、小説書いたり、映画撮ったりしてきた。「儲けたい」からという理由で動いたことないし。儲かるより好きなことのが百倍いいし。儲かるけどだるい仕事はやらないで来てしまった。

じゃ、これからも今まで通りでいいんだ!って思えた。

けど、私の年齢では、ニートではなくて、隠居か…笑。

ホントはそろそろ本気出して働こうとしてたので、「このままさぼっちゃおうか」という気持ちに拍車をかけたので、まずいんだけど。

でも、仕事も好きなことしかやってないから、いーのだった。

この本から派生して、西原理恵子の「この世でいちばん大事な「カネ」の話」もさっき読んだ。

こちらは意外とまっとうな「働くことはいいことだ」という本だった。

西原さんは自分が働くことで自由を得てきたって実感があるんだよね。それはすごくわかる。

そこらへんは「女性」ってことが強く左右する。私も「自分で稼ぐ」ってことにはやっぱりこだわってきたもん。

自分である程度稼げる自信があると、いろいろ恐いものがなくなるからね。自由を手にできる。

だから、「ひとが稼いだお金をあてにして生きるのはダメだ、専業主婦とかない」っていう、西原さんの一貫した考え方には強く共感した。

そんなわけで、「ニートの歩き方」についてはもっとたくさん書くことあるけど、とりあえず、今日はこのへんで。

あ、なんで、映画が見られないかについては、本を読んで下さい。書いてあるから。(笑)