山田あかねの一喜一憂日記

心に引っかかるテーマは前後の見境なく取材に行きます。映画、テレビ、本つくってます。

指揮者に学ぶ演出論

NHK,Eテレの「スーパープレゼンテーション」という番組が好きでよく見ている。

アメリカの「TED」で行われたプレゼンテーションをそのまま見ることができる。いろんな著名人のプレゼン、というか、スピーチを聞けてとっても面白い。

最近だと、フェイスブック初の女性取締役、シェリル・サンドバーグによる、「なぜ、女性のリーダーは少ないのか」というのが、興味深かった。日本よりずっと女性が社会進出しているアメリカでも、しかも、IT企業という最先端の分野の重役である彼女が、やっぱり、女性のリーダーは少ないってことに不満を持ってることが新鮮だった。

日本だと、その手の新分野の女性は、「え、性差別、そういうのもう、ないでしょ?」みたいに振る舞う人多いから。

その点、彼女はすごいな。日本の現状を知ったら、足をすくませるでしょう。日本ってなんでそんなに遅れてるの?って。

で、これはこれで面白かったんだけど、最近、一番納得したのが、イスラエルの指揮者、イタイ・タルガムというひとの、指揮者に学ぶリーダー論。

オーケストラを率いる指揮者からリーダーどうあるべき?を学ぶもの。

こう書くと、ビジネス本みたいでうっとうしそうだけど、実際のプレゼンを見るとすっごく楽しい。会場もしょっちゅう笑ってた。

世界の名だたる指揮者の指揮風景を見せながら、リーダーシップってなんでしょうと問いかけていくんだけど、リーダー論というより、自分は、「監督」あるいは「演出家」どうあるべきかって視点で見てしまった。

だって、オーケストラの指揮者って、監督に似てるよね。立場が。

指揮者が指示を出すのは、いろんな楽器のプレーヤーだけど、監督が指示を出すのも、いろんな俳優やカメラなどの各パート。

指示を出しているだけで、実際作り上げるのはそれぞれのスタッフ(演奏者)であるところも似ている。

楽譜は脚本と同じだろう。

ということでそのような視点で見ていた。

最初に紹介されたのが、ウィーンフィルを指揮するクレーバー。とにかく楽しそうで、踊らんばかりで指揮をしている。演奏者も楽しそうだし、観客も手拍子を打つなど、とにかく、会場全体が楽しそう。

次は、ベルリンフィルを指揮するムーティというひと。まるで軍隊の伍長みたいに威圧的で、明確な指示を出している。この指示とは、自分(ムーティ)の指示なのか、っていうとそうではないようだ。もちろん、演奏者の好きに解釈して演奏するなんてとんでもないらしい。

彼曰く、「モーツアルトに責任がある」。つまり、作曲者であるモーツアルトの指示に厳密に従おうというようだ。

結局、この方は、威圧的すぎるという理由でベルリンフィルを解雇されたそうだ。

ふうむ。

この手の、俳優やスタッフはすべて監督の思い通りに動くべし、道具になるべし、って考えてる監督、けっこういるような気がする。

で、次に紹介されたのが、ロシアの指揮者、シュトラウス。非常によく楽譜を見ている。彼の指示はこうだ。とにかく、楽譜に忠実に演奏せよ。勝手な解釈はいらない…という部類。

脚本至上主義ね。自分は脚本も書くことが多いので、ちょっと同意する。気持ちわかる。

が。

次に紹介されるのが、カラヤン。

指揮をしながら目をつぶっている。指示もわかりにくいらしい。演奏者から、何を言ってるのかわからないんですが…って言われるそうだ。

しかし。

それが狙いとな。

明確な指示を出さないことで、各プレーヤーにどうしたらいいかを考えさせ、お互いをチラ見させ、みんなで必死にカラヤンがなにを求めているかを想像して演奏するらしい。

ふうむ。かなり高度なテクニックだ。

しかし、この手の監督も知っている。ほとんど指示を出さずに、演者の解釈に任せ、いろいろやらせる。そして、編集などでいいカットを集めていく。この時、大切なのは、「監督が見ている」ことだという。

これはかなり上級テクニックではある。なぜなら、指示を出さないことで、とんでもない方向へ行ってしまう可能性もあるからだ。でも、一方で、役者やスタッフに任せた分、それぞれが最高の仕事をして、とてつもなくいいものができる可能性だってある。

賭けみたいなものか。自信のある監督に、このような態度で臨むひとが多いような気がする。

さらに番組は続く。

最後に再び、最初の紹介されたクレーバーが出てくる。

彼の指揮は、指揮しながら、いいところがあると目でプレーヤーを褒める。そして、自分も音楽を最大限楽しむ。プレーヤーもそれぞれ自分の最高を発揮ながら、演奏することを楽しむ。もちろん、観客も楽しむ。

こうして会場が一体になって、“音楽”が生まれてしまう。幸福な一回性の体験。

タルガムはいう、指揮ってこうあるべきだよね…みたいに。

彼の師匠バースタインも同じようであったらしい。

ううむ。

ここから演出分野において学べることは、各パートを信頼して、それぞれが最高の仕事をできるように場を作ること。そして自分もそれを楽しむこと。そんな風にできたら、本当にいいと思う。

今のところ、全然できてません。

そんな余裕があるところまでたどり着いてない。

でも、いつか、そういう現場ができたらいいなと思う。

しじゅう、笑顔でこの話をする、タルガムも魅力的で、彼の指揮するオーケストラが聞いてみたくなった。