山田あかねの一喜一憂日記

テレビディレクターをやりながら、小説書いてます。映画も撮りました。脚本なども書いてます。 本、買って下さいね。

小説「レモネードを作ろう」



ある日、アマゾンからこういう本を買いませんか…という案内が来た。それまでの購入履歴からおすすめ本が来るわけである。まず、タイトルにひかれた。「レモネードを作ろう」。ずいぶん、さわやかで甘酸っぱいタイトルじゃないか。さらに、作者を見ると、ヴァージニア・ユウワー・ウルフとある。

「ええ、あの、ヴァージニア・ウルフの新刊?けど、こんなタイトル、見たことない…」

そこで、よく読むと、とりあえず、あのヴァージニア・ウルフではないことがわかる。(偶然の一致か、なんらかの敬意を表した名前かはわからない)。けど、すでに惹きつけられ、帯を熱心に読んだ。

17歳、未婚、二人の子持ち…そんな女の子の話なのだ。というわけで、購入。届いてすぐに読んだ。(児童文学なので、さっと読める)。主人公は、アメリカの荒んだ町に住む14歳の女の子。バイトをしてお金を貯めて、大学へいき、この町から出て行くことを夢見ている。自分の力でなんとかして、今よりいい世界に出て行くことを夢見ているのだ。そんな主人公がベビーシッターのバイトをして、知りあったのが、冒頭に書いた、17歳で二人の子持ちの女子。彼女が夜、工場で働けるように、幼児と赤ちゃんの面倒を見るのだ。家は荒れ放題だし、17歳の母親もすぐにキレるし、最悪の状態である。しかし、ベビーシッターとして雇われた主人公と関わることで、立ち直っていく…というようなお話であった。

アメリカの底辺の現実を描いている…みたいな説明があって、確かに17歳の母親は悲惨だ。親はすでにいないようだし、薬をやってラリって妊娠して、子持ちになったのである。そのせいで、高校もやめ、字も満足に書けない。タイトルの「レモネードを作ろう」の意味が、物語の中盤であかされる。

17歳の母親が立ち直るきっかけになったエピソードである。以下にそのお話を要約して書く。

あるところに盲目の母親がいた。家は貧しく、子供たちはお腹をすかせていた。ようやく稼いだわずかのお金を持って、市場にオレンジを買いに行く。やっとひとつのオレンジを選らんで家に帰る途中、悪ガキたちに捕まり、泥のなかでころばされてしまう。オレンジは盲目の母親の手を離れ、悪ガキにとられる。悪ガキは、オレンジの代わりに、レモンを手渡す。母親は目が見えないし、泥だらけだったので、レモンとオレンジの匂いをかぎ分けることができなかった。オレンジを拾ってくれた悪ガキにお礼を言って帰る。悪ガキにいたずらされたことに気づかずに。

家に帰って初めて、持ってきたのがレモンだとわかる。レモンはそのまま食べることはできない。己の愚かさを嘆いていたが、はっと気づいて、盲目の母親はレモネードを作るのだ。わずかに残っていた砂糖と、水を使って。そして、そのレモネードで子供たちともに、飢えを癒すのだ。

このエピソードを聞いて、17歳の未婚の母は、勇気をもらうのである。確かに、レモンしかなくても、前向きに考えて、レモネード作ればいい。今の最悪の状況のなかでも、なにかできることがあるはず…というのが、たぶん、このエピソードの教えるところなんだろう。

「レモネードを作ろう」

なかなか魅力的な響である。オレンジがないからって、クヨクヨせず、今あるレモンを生かして、レモネードを作ろうよ、それも悪くないよ…ってこと。

一瞬、とても感動的に思える。けど、ずっと考えていくと、こういう問題は混乱してくる。オレンジがないなら、レモネードを作ろう…というのは、どんな状況でも前向きに考える…という意味では正しいかもしれない。

けどさ。

本当は、オレンジをとってしまった悪ガキをつかまえるべきなんじゃないだろうか。誰かにひどいことをされたときに、誰かを告発するのではなく、今あるなにかでしのごうとする…それでは、現実はなにも変わらないのではないか…とも思える。

妻を殴る夫がいたとして、足を蹴られても、あー顔は無事で良かった…と笑うことに似ていないか。本質=殴る夫を罰することを忘れ、一時しのぎでやっていけ…ってことにならないか。

オレンジを諦めて、レモネードを作ろうとばかり言っていていいんだろうか。ここらへんが、やや、疑問に思った。とても愛らしい、リアルな物語だっただけに、真剣に考えると、「レモネードを作ろう」という言葉が最初に思ったより、素直に受け取れなくなった。

もちろん、今ある現実を受け止めて、前向きに考え直すことは大切だけど、なんか…なんか。やっぱり自分は、オレンジが欲しいとき、オレンジが手に入るにはどうしたらいいかを考えてしまう。そういう社会であるべきだと思う。正論すぎ?そんな正論じゃ、なにも救えないよ!ってこと。事態はもっと深刻ってこと。

…とにかく、いろいろ考えた一冊でした。