山田あかねの一喜一憂日記

心に引っかかるテーマは前後の見境なく取材に行きます。映画、テレビ、本つくってます。

ミニの入院2

ミニ、入院2日目。

午前中にミニに会いに行く。今日は手術なので、昨晩から入院し、点滴したりして、体調を整えていたのだ。

面会すると、結構元気。



ほっとする。でも、これからが、勝負だ。

麻酔をかけて、CTを撮ることになっている。CTの結果次第で、手術ができるかどうか決まるのだ。

ミニは、脾臓に腫瘍がある。脾臓じたいは、犬にとって、なくても大丈夫な臓器なので、これを摘出するだけだったら、それほどの問題はない。

が。

ミニには、心臓に怪しいふくらみがあり、それは、もしかすると、脾臓にある腫瘍が転移したものかもしれない。あと、肺に転移していた場合、手術をするのは難しいという。

それはつまり、助ける手立てはない…ということ。

まずは、CTを撮った。そのまえに、麻酔をかけるので、麻酔によるリスクもある。ミニは10歳という高齢…人間で言えば、70代くらいか…なので、体力、心臓が持つか…などの心配もある。

だから、自分も必死になって、少しでも的確な医療を求めて、ココまで来たのだ。いや、もちろん、これまでお世話になっていた広尾のダクタリの先生もよくしてくださった。ダクタリの先生の所見と、日大動物病院の先生の所見はまったく同じだった。

だから、ダクタリで手術してもよかったんだけど、なんとか、最新、最善の治療を求めたくてココまできてしまった。飼い主のわがままか…。

CTの結果、心臓になにかあるのは確実にしろ、肺のほうはなんとかなるだろうという結論になり、手術が決定した。麻酔も問題なくかかったようだ。

これで一安心。それまで、生きた心地がしなかった。

手術は14時ごろから始まり、待合室で、呆然としながら待つ。ほとんど何もできず、何も考えられない。本を持ってきたけど、読む気力がない。かろうじて、音楽を聴いていた。ベートーベン。

「第九」の合唱を聞いているとき、手術が終わった。

外科の先生が、明るい表情でやってきた。診察室で、切り取った脾臓を見せてもらう。ものすごくでかい。たとえると…えっとサブウエイのサンドイッチくらいの大きさ…例が悪いかな。

さらに、脾臓にできていた腫瘍も見せてもらう。これもでかくて、プルーンくらい。とても硬くなっている。こいつが悪さをしていたのだ。

リンパ節への転移はとりあえず、なさそうだという。外科の先生が、明るく自信満々なので、手術が上首尾であったのだなと雰囲気で確認できる。よかった。

その後、しばらくして、ミニと面会。このときがきつかった。

それまで、おとなしく寝ていたのに、私が手を差し入れた途端、世にも悲しい声をあげて、鳴いた。悲鳴だ。ミニは子犬のころにしっかり訓練をしたので、これまで、悲鳴を上げたり、人を吠えたり、とにかく、声を出したことなんてない。

そのミニが、この世の果てのような悲しい声を出す。痛いよ、なんでこんな目にあわないといけないの?早くつれて帰ってよ…そういう感じだ。つらくて、悲しくて、自分も泣く。するとミニも鳴くので、なんとかこらえて、「待て!」をかける。

「待て」をかけると、ミニは鳴くのをやめるのだ。「待て」をかけられたら、おとなしくする…という習慣が骨の髄までしみついているのだ。けなげだ。

しかし、相当痛いのか、少したつとまた鳴く。ミニをさすりながら、また、「待て」をかける。明日散歩いこうね、…とか、ミニの喜ぶせりふを言う。「散歩」というのはミニの一番好きな言葉だからだ。

ミニが鳴き、飼い主が泣き、よろよろメロドラマみたいなことを繰り返したあと、いったん、病院を出た。雨は上がり、すっかり夕方になっていた。

態勢を整えようと決める。お昼も食べていないし、朝の雨で、ジーパンとスニーカーがすっかりぬれている。スニーカーに穴が開いていて、靴下までぐちゃぐちゃ。

日ごろ、どこへ行くにもタクシーに乗っているくせに、今日のような雨の日に限って、ホテルから電車にのり、駅から病院まで歩いていったのだ。大雨のなか、穴のあいたスニーカーをはいて…。

バカである。そして、自分はそのような人間なのだ。ミニが苦しんでいるときに、タクシーで行くのはいけないような気がして、歩きたくて、雨に打たれたくて、苦労したくて、わざわざびしょぬれになって、病院へ行ったのだ。

お百度参りをするようなものだ。私が雨に打たれたからといって、ミニが助かるわけではないのに、自分を罰していないと生きた心地がしないという、どうしようもないやつなのだ、自分は。

その結果、靴下までぬれて、寒くなったので、買い換えることになったわけだ。なにをやっているんだ、おまえは。

病院を出て、電車に乗って、藤沢に行った。ABCマートでスニーカーを、ユニクロでセーターと靴下を買い、小田急の食堂でご飯を食べた。



三色どんぶりってやつ。すっごいおなかがすいていたので。ミニに悪いと思いつつ。

その後、いったん、ホテルに戻った。非常にぐったりする。病院でミニを待ち、ミニにあう。主治医に話を聞く…以外のなにもしていないというのに。ぐったり。

しばらく、ベッドで休んだのち、20時過ぎたので、また、病院へ。



こういう機械がついていた。人間と同じだね。

そして、酸素の箱のなかのミニさん。



ぐっすり寝ていたので、起こさないで、しばらく、見ている。ミニがいるのは、集中治療室、いわゆるICU。ミニのほかに、きれいな色のミニチュアダックス、ベージュのラブらドールくんが入院していた。

とりあえず、二頭に「がんばれよ」と挨拶する。担当医の方はしばらく席をはずしたので、ひたすら、ミニを見ていた。小さく呼吸する胸を見ていた。生きている。生きている、と思いながら。

となりのケージで、ラブらドールがうんちをする。血便だ。見ていて、泣きたくなる。でも、自力でうんちできるくらい、元気なのかもしれないと思う。そいつが、自分のうんちをなめようとするので、「やめなよ」と言って聞かせる。すると、さすが、ラブ、頭いいのか、私の顔を見て、ふと、食べるのをやめる。

やれやれ、参ってます…って感じでため息をつき、座り込む。

その間も、ミニはぐっすり寝たまま。わたしのにおいをかぎつけて、目を覚ますかな…と思ったけど、起きなかった。いたずらに起こさないでよかった…と思う一方で、わたしのにおいなんど、求めていないのではないかと思ったり。飼い主の心は乱れる。

主治医の先生が、飼い主が触るとどういう反応をするかみたいので、触るのは待って…と言って部屋を出たのだが、ちいさな空気穴にひそかに、左手の人差し指を差し入れてみたら、鼻を微妙にくんくんさせる。夢のなかで、私のにおいを嗅ぎ取ったのではないか?

指だけでは、においが弱いのではないかと思い、指をなめてから差し入れてみた。…なにやってんだ?自分。

しばらく、そのようなことをして、ミニを見ていたら、ふと、目覚める。担当医がいるときに目覚めさせろといわれたのに、起こしてしまった。急に心拍数があがって心配になる。

ので、小窓を開けて、手を差し入れ、ミニに触る。さっきよりつらそうで、鳴き声もあげない。押し殺したように、きゅーきゅーとかすかになくだけだ。ほんとうにぐったりしている。おなかには、まっすぐな手術のあと…。

そうこうするうちに、主治医さんたちがやってくる。ミニの起きた姿を見て、酸素量を少し上げる。ミニは私にあって、やや興奮気味。

主治医の先生から経過を聞き、まだまだ油断のならないことを知る。なにしろ、手術のあとだもんね。心臓に爆弾も抱えているし。

近所のホテルに泊まっていること、どんな小さな変化でもあったら、電話して呼んでほしいこと、、真夜中でもいいし、とにかく、なにかあったら、どーしても会いたいから…と昨晩と同じことを繰り返す。

「あーうるさくて、ちょっと常軌をいつした飼い主だな」と思われるだろうなと思いつつも、事実だからしょうがないや…と思う。先生たちの顔に「ちょっと迷惑」な表情が浮かぶのは当然だ。

困った飼い主さんを演じて、ホテルに帰ってきた。

明日も午前中から面会に行くのだ。今、自分にとって、なにより、ミニが大切で、心配で、それがすべてだ。ミニ以外にいったい、なにがあるというのだ。

がんばれ、ミニさん。