昨日、映画の街、ハリウッドから戻りました。
かなり充実したロケだったと思います。もっとやれたことはあるけど、まあ、おおむね良好でした。
最終日のロケが終わったのが、8時過ぎ。夜ご飯を食べ終わったのが10時すぎて、その後、軽く打ち上げ的にクラブに行きまして、ロス在住の女優さんと、小盛り上がりをしたあと、ホテルに戻ったのは1時過ぎでした。
翌朝は8時にホテルを出る予定なのにもかかわらず、なんか、気分的にそのまま寝る気になれなくて、疲れ切っているであろう、カメラクルーと見た目にも精神的にもヨレヨレになっているADさんに声をかけて、パワハラ的に部屋飲みしました。
で、寝たのが4時近く。3時間睡眠で空港へ。
まあ、帰るだけですからねー。機内で、瞬間的に眠気に襲われ、1時間くらい意識を失うように眠りました。
が。
そのあとは、映画4本、ノンストップで見てました。
見たのは、「ジュリエットからの手紙」「抱きたいカンケイ」「ガリバー旅行記」「まほろ駅前多田便利軒」。
ひとつひとついきます。今日は「ジュリエット」から。
(ネタばれがあるかもしれないので、自己責任でお願いします。)
(それぞれの映画を略して表記します)
「ジュリエット」は脚本がよく練られた、ハリウッド的作品。ニューヨークに住む、雑誌「ニューヨーカー」でリサーチの仕事をしている女子が主人公。
彼女にはライターになりたいという夢がある。ここらへんの設定の「わかりやすさ」。ある意味でのシナリオの教科書のよう。
彼女には婚約者がいて、それをあのメキシコ人の超魅力的な俳優、ガエル・ガルシア・ベルナルが演じている。最初出てきたとき、「もしかして、ガエル?」って思ったけど、これまでの情熱的でセクシーな役柄とは違って、「普通の恋人」を演じていた。
ちょっともったいないキャスティングに感じた。こういう役も引き受けるのね…余談ですが…。
で、ガエル演じる婚約者は、イタリア系ってことになっていて、イタリアンレストランをオープンさせようとしている。
このための視察とプレハネムーンのために、ふたりはイタリア・ベローナへ向かう。
ここにすでにこの映画の結末の「予感」があるわけですね。
ハネムーンなのに、彼の「仕事」の場所へ行かないとならない。そこに軽くこのカップルのもつ問題が描かれているわけです。
いわゆる「伏線」みたいなもの…。
脚本の構造に敏感な自分としては、「あー仕事ばかりに夢中の彼とのすれちがいを描いているのね。これがのちにもっと明確になるのね」ってわかってしまいます。
話を先に進めます。
ふたりが向かったベローナは、「ロミオとジュリエット」の舞台になったイタリアの街です。
私も一度行ったことがあります。赤煉瓦の屋根が続く、川沿いの美しい街。
ここには、ロミオがジュリエットに愛を捧げた「ジュリエットの家」なる場所があって、有名なシーンに出てくる、バルコニーもあります。
観光名所になっていて、ロミ&ジュリのような世紀の恋に憧れる人々が世界中からやってくるわけです。
参考までに「ジュリエットの家」
観光客はジュリエットの気分になって、このバルコニーに立ちます。そこで写真撮ったりね…。
しかし、サイド情報として書くと、ここが必ずしも、ロミジュリの舞台かというと真偽のほどは確かではないようです。
もともと、ロミジュリ自体が実在したかどうかもわからないわけですし。
なぜなら、もう1箇所あるんですね。「ジュリエットの城」と呼ばれるところが。ここも行きました。こっちのがマイナーで、観光客も少ないです。もっと大きな城あとでした。
ベローナ市としては、前出のジュリエットの家のほうを公式な場所としているみたいです。
で、ここを訪れるひとが、ジュリエット宛に手紙を書いて、おいていくことができるようになっています。
恋の悩みについて、命がけの恋をしたジュリエットに聞いてもらおうというわけです。
で、それについて、返事がくるそうです。ジュリエットの秘書と呼ばれる、ベローナの市役所の職員の方々がせっせと返事を書いているそう。
「これだ!」
と思ったことでしょう。企画者は。
このネタをつかって、純愛モノのラブストーリーを作ろう。
ロミ&ジュリといえば、交際を親に反対されて、心中した物語ですが、そんな物語は、何度も似たようなものが作られている。
それに、今のアメリカで「親に反対されて別れる」なんてカップルは少ないだろうし、共感を得られまい。
もっとこう、たくさんのひとを魅了しつつ、ロミ&ジュリ的純愛モノはできないだろうか…と作者は考えた…にちがいない。
ここに一つ、企画の成功がありますよね。ロミ&ジュリだからといって、心中モノ、世紀の悲恋にしなかった。
だってさ、ハッピーエンドじゃないと映画は「あたらない」もんだからです…笑。
で、まあ、この「ジュリエットの家」で主人公は、50年前に書かれた手紙を発見します。お約束のように…。
それはベローナでイタリア人の男性に恋をしたイギリス人女性からの手紙で、彼女は彼に思いを残しながら、イギリスに戻った。その時の切なさを託した手紙でした。
主人公は「ライター」志望です。ここで、この設定が効いてきます。彼女が普通の主婦になりたいだけのひとだったら、この物語は成立しません。
「ライター」だからこそ、このネタにとびつくわけですね。
50年前の初恋を諦めて、イギリスにもどった女性がどんな人生を送ったか…「知りたい!書いてみたい!」と…。
はい、シナリオの基本です。主人公の「やりたいことを明確にする」。
この映画、シナリオの作り方として見るととてもよく計算されているんです。よくできている。
キャラクター設定といい、物語の核になる、「謎」の設定といい、わかりやすい…。
けれども、見ている間中、「この設定をどうまとめるのだ?」という職業意識を刺激し続けるので、物語に入り込むことはなったです…こういう設定を信じられるほど、ウブではなくなっておりまして…。
すみません、すっかりシナリオ解析になってます。続けます。
50年前の手紙を発見した主人公のライター志望の女子(婚約者とは微妙に距離を感じ始めている…)は、この手紙に返事を書きます。
この手紙の内容がこの映画のラストで効いてくるしかけになっているのですが、ここも「うまい脚本」のところで、ここではなにを書いたか明かされないんですね。
で、ほどなく、この手紙を読んだ50年前の少女が「ジュリエットの家」にやってくるんですねー。
ここに、ちょっとだけムリがあります。手紙を出した2日後に来ちゃうんですよー、手紙を受け取った女性が…。
イタリアからイギリスまで何日で手紙がつくのかわかりませんが、この設定だと1日でついて、ジュリエットからの返事を読んだ女性は翌日にはベローナに出発しています。
いえ、こんな些細なところをつっこんでもしかたないですね。
おばあちゃんですから、暇なのでしょうし、それだけ、彼女には意味のある出来事だった…ということで、ありえなくはない……でしょう。
そして、さらにお約束のように、このおばあちゃんには「孫」がついてきます。
65歳のおばあちゃんの初恋の相手探しに、20代の孫である、男性が「ついてくる」可能性は極めてひくいですよね。
だって、仕事あるでしょう?
でも、ここでもなんとか「おかしくない設定」がなされています。孫はおばあちゃんに育てられたんです。10歳のときに両親を失って…。息子を亡くしたおばあちゃんと、両親を亡くした孫だからこそ、ふたりの関係は濃密であり、「普通の孫とおばあちゃん」じゃないんです。
はい。ここで観客は早くも気づくわけです。
あーこの孫と主人公は恋に落ちるののね、はいはい。
まるで設定したかのように、この孫の男性、イケメンで優秀なのに、「感じ悪い」んですねー。
いわゆるツンデレがこめられております。
さて、物語はこのふたりがどうやって恋に落ちるかってテーマと、おばあちゃんの初恋の相手は見つかるか…というのテーマがからんで進行します。
わかりやすいですねー。
ジュリエットからの手紙を読んだおばあちゃんは、すっかり、かつての初恋の相手に会いにいきたくなっているわけです。
都合よく、おばあちゃんの夫はすでに亡くなっております…笑。
しかしですね、この「昔の男に会いに行く」というモチベーション、結構納得できました。
自分は老女ではありませんが、ある一定の年をとってみると、「昔、仲良くしていたあのひとは、今はどんな暮らしをしているだろうか…というより、生きているかしら…」と思うものです。
もう少し前だと、そんな相手との再会は、面倒な事態になるかもしれず、忙しいし、わざわざ探して会ってみたいとも思いませんでしたが、年を重ねると、昔の恋愛に対する憎しみやら執着やらが消えて、「懐かしい思い出」となるものです…たぶん。
で、おばあちゃんと孫の「初恋の相手探し@イタリア」が始まります。
ここでも主人公の「ライター志望」が発揮されます。彼氏とイタリアに来ているのに、彼氏をほおって、この「初恋探し」の旅に同行するからです。
彼氏と海外旅行に来ているのに、それを放置して、「よく知らないひとたちと旅する」のには、説得力がいります。
それは、「この物語を書いてみたい」というライター志望としてのモチベーションと、彼氏のほうも、自分のレストラン経営に役立つ情報収集に夢中で、そっちのが彼女より、大事なんだ…という設定です。
これなら、彼女も彼氏より「他人の初恋探し」を優先できます。
(自分なら、ライター志望でもそんなことできない気がします…笑。彼氏と一緒にワイン蔵巡りしても楽しいと思うけど…ま、いいでしょう)。
で、まあ、おばあちゃんの初恋相手を探すうち、最初は「感じワル」だった孫と心が通じていくわけですね。彼には両親を失った過去があり、だから「愛に臆病」だったりするんです。
しかし、主人公には婚約者がいます。なので、なかなか素直になれない。旅のあいだにふたりは急接近するけれど、一線を越えることはなかった。
そんなわけで、無事おばあちゃんの初恋のひとは見つかって…それも理想的な形で…笑…、この旅は終わります。
お互いに思いを残しながら、それぞれの国帰って行く主人公たち。
おわかりでしょうか。ここが、「かつてのおばあちゃんの初恋」と同じ構造なんですね。
本当は好きだったのに、いろんな状況から、そして、自分自身の勇気のなさから、告白できずに、別れ別れになる…という設定。
このままではおばあちゃんと同じになる…と観客を思わせながら、主人公のライターは、婚約者とともにニューヨークに戻ります。
で、ニューヨークで、彼女はこの「旅もの」を書き上げ、めでたく、雑誌に掲載される…という栄誉を受けます。
しかし、婚約者はそれほど喜んでくれません。自分の店のことで頭がいっぱい。
主人公は婚約者との溝を感じ、さらに、「ジュリエットからの手紙」を読み返すことで、自分の間違いに気づきます。
だめだわ、あたしも、真実の愛に生きなくっちゃ!
という決心をしたころ、まるで、計算したかのように……脚本家が計算しているんですけどねー…、ベローナから連絡が入ります。
あのおばあちゃんが、見つけ出したイタリア人の初恋の相手と結婚するというのです。だから結婚式に参列してほしいと……あははは…ほんとに?
まあ、ここで、なんとかイタリアに主人公を行かせて、例の孫と再会させないといけないので、「ムリのない設定」をおいたわけですねー。
はい、ギリギリ、「あり」なんじゃないでしょうか。ロマンチックですしね。愛は50年たっても決してそこなわれないんですねー。(いいたいことはいっぱいありますけど…笑)。
主人公は、これ幸いと、婚約者に別れを告げ、イタリアへと旅立ちます。
へえーなるほど。
婚約者がいるのに、他の人に恋してしまう重さって本当はもっときつくて、心身ともにぼろぼろになるし、(経験済みです…笑)、婚約者だってそんなに簡単に別れてくれないし、超泥沼なんですけど、そこはスルーして、さらっとイタリアへ向かいます。
(あんなかっこいいガエル・ガルシア・ベルナルをふって……もったいない!!)
で、まあ、再会したツンデレ孫と主人公の女子は結ばれます…。
あ、簡単に書きましたけど、一応、ベローナについてからも、例の孫に「恋人がいる」と誤解したり…と多少の「ひねり」はあります。
あと、主人公が行動を起こすきっかけとして、彼女が書いた「ジュリエットからの手紙」が効いてくるんです。ここ、うまいと思いました。
50年前の恋人と再会し、再婚することになったおばあちゃんが、この手紙を読み上げるわけです。この旅のきっかけ、昔の恋の再燃に役立ってくれたものとして…。
それはもちろん、主人公が書いたものです。
いわく、自分の気持ちに正直に行動せよ…と。その愛を貫け、諦めるな…
「もし、あのとき、告白していたら…」という後悔を背負って生きるのはちがうと思う…みたいな内容なんですねー。
それで主人公はつらくなって…なぜなら、自分は告白できなかったから、逃げ出す…。追いかけてくる孫。孫の恋人だと思っていたひとは「いとこ」だってことがわかり、誤解がとけて、ハッピーエンドです。
はい、よくできました。
正直、つっこみどころ満載の、ある意味、リアリティゼロの作品であります。
けどまあ、よくできているし、自分の気持ちを信じろ、貫けって部分は共感しました…。
けどさ…。
もし、本当にそんな手紙に返事を書くとしたら、「思いをつらぬけ」みたいなことを書けるだろうか。
だって、50年たっているんですよ。
50年前に思いを残して、故郷に帰った女性に、なにを書けるだろうか、自分だったら…。
私なら、正直に、「今、どうしていらっしゃいますか。50年前の初恋を覚えていますか。その時の選択をどう評価していますか。もしよかったら、そんなお話をうかがいたいです」ってまんま書いてしまう。
50年過ぎて、「正直に生きて下さい」なんて手紙をもらったら、すごくショックを受けるのではないかな…。
なぜなら、大部分のひとは、10代のころ、期待した人生とは別の道を歩むのではないかな…。ちがうかな…。
ううむ。
ということで、シナリオ構成の勉強にはなる作品でした。こういうふうにもっていけばいいんだ…って意味で。
でも、リアリティがなさすぎて、それゆえ、深い感動というのは得られないのでした。
あ、でも、純愛を信じる、ロマンチック好きな、心優しい方々はきっとけっこう好きになれるのだろう。
次にみた「抱きたいカンケイ」と比べるとシナリオ構成の秀逸さがよくわかります。
「抱きたいカンケイ」は設定もいいし、新しいと思うけど、脚本が描き切れていなかった。それと、ナタリー・ポートマンの企画らしいけど、主人公のキャラがナタリーにはあってなかったなー。
恋人を作らず、セフレだけ作って生きる女医役なんだけど、彼女、清楚な美人すぎて、説得力がなかったです…これについては、また、明日。
蛇足。
映画「ジュリエット」のなかで、雑誌「ニューヨーカー」の編集者がしきりというセリフがあります。
「女はこういうロマンチックな話が好きだからなー」
ちょっとバカにするように、ニヤニヤしながら、言うのです。
それゆえ、主人公の書いた「旅モノ」は採用されるわけですが、このセリフ、この映画の企画者(プロデューサー)のつぶやきにきこえました。
「女は、こういうロマンチックな映画が好きだからなー」…