山田あかねの一喜一憂日記

テレビディレクターをやりながら、小説書いてます。映画も撮りました。脚本なども書いてます。 本、買って下さいね。

映画「未来を生きる君たちへ」

そんなわけで、アカデミー賞に輝いた、デンマークの女性監督、スサンネ・ビアによる一本です。

ほとんど予備知識なしに見に行きました。

始まりは、アフリカのどこかと思われる、難民キャンプみたいなところ。

そこで、医師として献身的に働く白人が描かれる。

あれ…これって、そういう話なんだっけ?とちょっとびっくりしました。

デンマークの、もっと、親子もの、家庭モノじゃなかったっけ?…と。

しかし、始まりのシーンは、主人公の医師アントンの仕事を描いていたんですね。もちろん、人間同士の戦い…についての示唆的なシーンでもあるのですが。

いやー骨太のよくできた脚本でした。

いろいろ描かれていたシーンやキャラクターがラストに向かって、全部意味を持って、用意されていたのかのように回収されます。

その手際のよいことといったら。脚本のお手本みたいなところがあります。

ざっくりあらすじを書きますと、

主人公のアントンは、デンマークに暮らすスウェーデン人医師で、アフリカのどことは明確にされない地域の難民キャンらしきところに、働きにいってます。

そこで、地元の人々の治療にあたっています。そこでは、理不尽な殺戮が行われているし、劣悪な環境だし、とにかくハードな仕事です。

でも、そんな仕事をしているくらいだから、アントンは正義感の強い正しい男なんですね。

で、一方、彼の息子はデンマークの学校に通う、中学生(くらい)。スウェーデン人だってことと、歯列矯正をしていることから「ねずみ」とあだ名されて、いじめられている。

この学校にロンドンから転校生がやってくる。母を亡くしたことで、心に闇を抱えた少年。

いじめられていたアントンの息子とロンドン帰りの少年はお互いの孤独ゆえ、仲良くなり、いじめっこに対抗することに…。

ということで、この映画は、アントンが対面するキャンプでの暴力沙汰と、アントンの息子が学校そのほかで巻き込まれる暴力沙汰をシンクロさせるように描いています。

邦題は、「未来を生きる君たちへ」ですが、原題は、デンマーク語で「復讐」という意味。

テーマとしては、暴力を振るわれたとき、復讐することの意味…みたいなことでしょうか。

なぜなら、アントンもその息子も、理不尽な暴力沙汰に巻き込まれるわけですが、それに「どう対処するか?」ということを問いかけてくるからです。

アントンは、暴力に対して、暴力で立ち向かってはいけない…という正論を身をもって証明しようとします。だいたい、難民キャンプで医師として働くくらい、正義感のあるひとですから、一貫しています。

しかし、一方でその正義感の強さに「ホントにそれでいいのかな?」と思わせる局面もあります。

つまり、暴力沙汰にたいして、仕返しをするのではなく、かといって、無視したり、やり過ごしたりもせず、暴力を振るってきた相手にたいして、理性と言葉で立ち向かうんですね。

立派なんですけど、時にその姿勢が問題を大きくするようにも見えてきます。

しかし、映画はその答えを終盤で教えるんですね。監督からのメッセージかもしれませんが。

子供のイジメの世界と、アフリカの難民キャンプでの理不尽な殺人を同じ目線で描いています。その大胆さがすごいです。

最初は気づきませんでしたが。

もしかしたら、戦争にいたるまで、あらゆる理不尽な暴力沙汰とは、子供のイジメやけんかと同じようなものなのかもしれない…という大胆で大きなとらえ方です。

「ツリー・オブ・ライフ」が、自分の人生と地球を同じように語るのをちょっと思い出しましたけど、スケールが違うかな。

子供たちの演技も秀逸だし、悩めるアントンの姿も魅せます。

同じく暴力を描いたものでは、韓国映画「息もできない」がありますが、正直、私はこの映画があまり好きではないのですが、なぜなら、「息もできない」に出てくる「暴力」ってちょっと魅力的に描かれているんですよね。

人をとらえてはなさないもの…として。あるいは、逃れられないものとして。

その、暴力に対する甘さというか、暴力の瞬間を丁寧に描くことに酔っているような部分がいやでした。あるいは、観客に「暴力を味わう体験」をさせることが。

暴力のポルノ化…とでも言ったらいいのかな。

暴力の悲惨さを描きながらも、暴力が発揮される瞬間におとずれる精神的興奮を見込んでいるようなところがある。それが嫌い。

この「未来を生きる君たちへ」は、暴力を描いてますが、その瞬間の描き方が、さっぱりしているというか、楽しませる隙は作っていません。

暴力が発露する瞬間を劇的に描くことを禁じているような気がします。

そのあたりの上品さが好きでした。

しかし、脚本、演出ともに、観客を釘付けにする仕掛けは充分されているんですけどね。

なので、すっかり引き込まれ、最悪の事態が起こりませんようにと祈るようにして見ました。

アントンの息子を演じた、ちょっとなさけない少年がとてもいい。いや、その友人の母を亡くして、凶暴になっていく少年もまた、魅力的でした。

大人の役者よりもこのふたりが秀逸で。

かなり引き込まれる作品でした。