山田あかねの一喜一憂日記

心に引っかかるテーマは前後の見境なく取材に行きます。映画、テレビ、本つくってます。

映画「終の信託」

なんとなく気になって、「終の信託」を見ました。

ツイッター上では、(自分のTL上では)、あまり評判が芳しくなかった。

が、私は、「それでもボクはやってない」より好きでした。

この映画は、終末医療の話のようでいて、本意は日本の法制度、裁判、検事のあり方についての映画なのではないか、と思いました。

「それでもボクはやってない」も、ちかんの話、というより、裁判のしくみそのものがテーマだったように。

もちろん、「痴漢」も「終末医療」もテーマではあると思うけれども、どちらも判断がとても難しい領域を扱っているし、それをどうやって法が裁くのか。

法…と言っても、それを使うのは人間、つまり、検事とか裁判官とかであるから、それがどのように行われているのかを、悪い言葉でいえば、暴き、その実態を問いかけるという、ある種、ジャーナリズムのような作品だと思った。

だから、医師である折原(草刈民代)と患者の江木(役所広司)との関係とか江木の妻とか、そのあたりの物語は実は、事実を(映画のなかの事実を)しめすための素材であったのだ。(あとから考えたら)

一番の見せ所は、大沢たかお演じる検事と折原とのやりとり、検事が「殺人」を立件して行く様子こそが、この映画の一番描きたいところであり、それがいかに理不尽か、あるいは、このままでいいのかと問うための、前半であると思えた。

あの、検事と被疑者とのやりとり…たった一日の数時間で、医師を殺人者にしたててていく様子、これはまだ、誰も撮ったことのないものではないだろうか。

それに立ち会う、細田よしひこ演じる検事補の動揺するような、迷うようなしぐさも含めて、これまで刑事ドラマや殺人事件を扱った映画やテレビが1度も描いたことのなかった、「殺人犯」が生まれる瞬間じゃないのだろうか。

そうやってみると、世界にはまだ描かれてないものがたくさんあり、それをていねいにすくいあげ、調査し、真摯に描く…という周防監督の姿勢に、感銘を受けた。

やっぱり、「まだ、1度も描かれたことのないもの」こそ、描くべきじゃないかって。

ひとつはそのことに感動した。

そして、それとは別に、ひとはなんで生きているのだろうという根本的な問いに、高校生みたいに戻ってしまった。

(以下、ネタばれありです)

草刈民代演じる女医・折原は、浅野忠信演じる医師と不倫関係にある。それが破れたとき、折原は生きていくのがいやになってしまうが、患者の江木(役所広司)の治療にあたるうちに回復していく。

折原は、浅野忠信演じる男との「恋におぼれていた」という。それをなくして、死にたくなり、江木と親しくなって、生き直すことができたという。

つまり、彼女は、男との恋愛関係に生きる価値を見いだしていた…とも言える。いや、わかる。っていうか、よおくわかる。

生きることはひとを愛すること、と考えたら、たぶん、そうなんだけど、それはわかった上で、やっぱりここにも、恋愛至上主義というか、ロマンチックラブイデオロギーのワナがあると思う。

彼女は医師であり、その仕事に責任を持ってやってきただろうに。

まるで、恋をなくしたら、ゼロ…と考えるなんて、80年代に青春を送ってしまったひとの宿命みたいじゃないか。

この世界には、恋や愛のほかに、生きる意味はないんでしょうか。恋や愛を持たないひとは、なにをよすがに生きたらいいんでしょうか。

今日の昼間は劇団ハイバイの「霊感少女ヒドミ」を見てたんですけど、(この舞台については明日書きます)、ヒドミは霊感があって、成仏できない霊と交流することができるんですが、彼女が交流する霊の一人は、恋に破れて死んだ男。ここでも、恋は死と同じくらい重くて強くて絶対的な価値を持つものとしてとらえられている。

恋、愛と死が同列に語られるものを二つ続けて見てしまって、恋愛が終わったあとの人生ってなんだろう…って思った次第です。

確かに、恋愛に強く彩られている時期というのは、生きてる実感が強くあるように思うけど、それが過ぎた後にも人生は続くし、そもそも、それほど、恋愛に傾倒しないままに生きてるひとも多くいるような気がする。

その時、「恋愛が一番強い感情である」を前提として、物語を始めるのって、なにかをおいていくことにならないか、と思ったわけです。

ええ、自分も上記のような前提で、小説を書いてきており、その前提に疑いもなく、それが一番書きたかったことなので、そうしてきたのですが、年を重ね、ようやく、そればっかりが人生でもない、ということを今更知って、その前提が実は限られたものであったことを知ったのでした。

今なら、かなり客観的に見ることができるから。

……そんなわけで、「終の神託」には心を揺さぶられました。

浅野忠信演じる医師が、これが、イヤな男で、でも、そのイヤらしさ加減を上回る魅力というか、「いい男」ぶりで、これではズルズルと惹かれていくのも仕方ない、と思わせる、かっこよさでした。かっけー!

役所広司さん演じる江木もまた、魅力的なひとで。

病気の様子もかなりリアルというか忠実に描いているように思えた。映画的効果を狙って派手にした部分がないことも好感を持てた。

なんか、よかった。静かな映画だった。

こういう死の描き方、いいと思った。

1度も泣かずに見れた。

むしろ、泣けない映画がいいよね。