山田あかねの一喜一憂日記

心に引っかかるテーマは前後の見境なく取材に行きます。映画、テレビ、本つくってます。

『ミレニアムと私」

映画「ドラゴン・タトゥーの女」の原作、「ミレニアム」にはまったあげく、この本『ミレニアムと私」を手にした。

ミレニアムの作者、スティーグ・ラーセンは、全世界で6千万部まで売り上げた小説を書いていながら、出版を前にして、2004年11月に50歳の若さで急死している。自分の成功を知る前に亡くなった。

これだけでも、小説におとらぬミステリーだけど、さらに、彼と32年間パートナー関係だった女性は、スティーグの遺産を相続することができず、この小説の著作権もスティーグの父と弟に持って行かれてしまったそうだ。

うぐぐ。

しかし、自分の興味はこの遺産相続をめぐる争いよりも、スティーグ・ラーセンという作家がどういう経緯でこの小説を書いたかにあった。

前にも書いたけど、スウェーデンといえば、世界でも有数の民主的な国だし、女性差別が殆どない、人類のなしえる、かなり理想的な国じゃないかと思っていたのだ。

一方的なイメージというよりは、2000年に取材で行った時にもそう感じたし、世間の評価もそれほど私とずれていないと思うの。

けどさ。

この小説に書かれているのは、女性差別の凄まじい現状やらドメスティックバイオレンスやら、大企業の不正やらとにかく、そこらの先進国と変わらない、というより、かなりひどく見えた。

そこで犠牲になる女性たちがいかに多いことか。

元々この小説のタイトルは「女を憎む男たち」だったそうだから、根底に強いフェミニズムが流れているんだよね。

フェミニズムとミステリー。ものすごく似合わない…と思ってた。

だってさ。

ミステリーって、まず犠牲者がうら若き美しい女性というのがパターンで、変質者や悪者の餌食になるんだけど、そこに「美しい女が殺されること」を読者がけっこう喜ぶ…というフシがある。

前にも「女の子を殺さないで」の時に書いたけど、多くの読者は女の子が殺される、なるべく無惨に…というのが好きなんだよね。そういうシーンがあると「売れる」!

なので、どっかミステリーってものに違和感というか、そういうお楽しみを与えるものとして、ちょっとイヤだった。

で、「ミレニアム」についても最初は同じような印象を持った。映画館で予告を見たとき、「孤島で美少女が行方不明」というキャッチに、「またかよ」って思った。

永遠に世界では、「美少女は行方不明」になってるんだよね。いろんなかたちで。

それって、結局、心のどかかで、「美少女が行方不明」になることに「萌える」部分があり、それがひとの関心をひくからでしょう。

「年老いたおじいさんが孤島で行方不明」の物語とどっちが見たいかしら?

…というわけで、いぶかしげに「ミレニアム」視聴者になりましたが、映画では、原作に流れるフェミ魂は感じられなかった。

リスベットがいやに強いな、ってことは感じたけど。

けれども世界的ベストセラーを支えるものはなんだろうって気になって原作を読んだわけですね。それと、女性が生きやすいはずのスウェーデンという国で、どういう経緯でこういう物語が生まれるんだろうって。

それで、原作を読むとすごいフェミ魂。

「この事件の核心は結局のところ、スパイとか国の秘密組織とかじゃなくて、よくある女性への暴力と、それを可能にする男どもなんだ」

って、実際、「ミレニアム」のなかで主人公のミカエル(男)が語っている。

それで、「ミレニアムと私」まで読みましたよ。

本としては、作者のエヴァ・ガブリエルソンさんが、伴侶を失ったあまりの悲しさに加えて、著作権争奪戦や遺産相続、住んでいるアパートを追い出されそうになるなどで、傷つきすぎていて、完成度は高いとは言い切れない。

よほど傷ついているんだなってことはわかったし、同情する。

でも、やはり彼女の言葉によって、作者のスティーブ・ラーセンが筋金入りのフェミニストであり、だから意識的に物語の要には強くて、潔い女性を何人も登場させているのが納得できた。

そして、実際、ジャーナリストとして、「極右勢力」と闘ってきたってこともわかった。

ミステリーといえども、その底流にはしっかり作者の哲学が流れているんだなー。だからこそ、この読み応えなんだよね。

最初から最後までぶれない。

いえ、近々にミステリー分野の小説に着手する予定なもんで、自分に問う部分があったわけです。

事件をたんに面白くするために、殺人や事件を起こすことは非常にためらわれて。

いや、今時のミステリーにはそういうこざかしい哲学は必要なく、もっと軽い気持ちで読者を楽しませることだけ考えなきゃいけないのかもしれないけど、どうもできそうになくて。

古い人間でございます。

というわけで、ここ数日の「ミレニアム」漬けがやっと終わりまして、日常生活に戻っていける。

しかし、リスベットに会えないのはさみしいな。

多くのひとと違わず、わたしもリスベットのファンです。強いし、格好いいよね-。

ひとりで世界中へ行き、冷凍ピザとサンドイッチとコーヒー飲んで、面倒な恋愛などは回避して、欲望のおもむくままに行動できるリスベット、大好きじゃ。

ドラゴン・タトゥー、いれたくなっちゃうもんねー。