山田あかねの一喜一憂日記

心に引っかかるテーマは前後の見境なく取材に行きます。映画、テレビ、本つくってます。

東京国際女性映画祭2012

昨日に引き続き、今日は、東京国際女性映画祭に行って来た。

たいへん残念なことに、東京国際女性映画祭は今年がファイナル。27年間続いてきた映画祭が今年で幕を閉じる。

今年、台湾ソウルの女性映画祭に自分の映画が招待されて行った。どちらの女性映画祭も盛大で、大規模、上映映画数も参加者も東京よりずっと多い。各国のプロデューサーや監督との交流も盛んで、とても有意義であった。

けど、女性映画祭が盛大というのはホントによいことなのか、という気持ちもある。ソウルは特にそうだけど、テーマがかなりはっきりと性差別がメインだった。

ドメスティックバイオレンスやレイプ、差別される女性を描いた映画が圧倒的に多かった。

それはつまり、それだけ、「性差別」がリアルな問題だってことを意味している。とにかく、今すぐ描きたい、訴えたいテーマが性差別だってこと。そう思うと暗澹たる気持ちになる。

一方、日本だと、性差別を前面に押し出した映画は少ないし、テーマとしては少数派だと思う。女性監督は最近増えているけど、あえて女性的なテーマを前面に押し出しているひとは少ない。むしろ、あまり、女性らしさを強調しないようにしているようにさえ見える。

これにはとても複雑な気持ちになる。

レイプ問題が日常であるソウルも問題だけど、性差別を描きにくい日本も問題だ。日本だと、「男性性」「男性の視点」を内在化した作品が受ける。

「女性らしい作品」と謳われている作品は、案外、「男性がこうあってほしいと思う女性」を女性の側があゆみよって作っている場合が多い。その方が企画が通りやすくて、映画にしやすいからだ。作り手側の偉いひとはほとんど男性であるし、観客の女性も男性性を内在化した女性が結構いるからだ。

なので、日本では女性映画祭がある種の使命を終えた…と考えて収束するなら望ましいことだけど、そうでないなら、複雑な気持ちになる。

実際、まだ、終わってないと思うし。

そんなわけで、複雑な気持ちのまま、会場へ。



東京国際女性映画祭ディレクターの大竹洋子さんを囲んで、宮武監督と。

写真を撮ってくださったのは、撮影監督の高間賢治さん!(巨匠だよ)

でも、運命ってあるんだなって思った。

今日、上映される作品について、全く情報を持っていなかった。というより、昨日のグリーンカーペットに参加して終わりかと思っていたんだ。ところが、今日こそファイナルと知り、朝からでかけたのだった。

そして。

とても刺激を受ける映画に出会った。

平松恵美子監督の「ひまわりと子犬の10日間」である。



正直に言えば、「犬」をテーマにしたヒューマンな映画は苦手だった。見ないようにしてきた。なぜなら、そういう映画ではたいてい犬が死ぬし、よってたつ物語が犬のかわいらしさを歌いあげるものが多いからだ。

犬が死ぬのを見るのはたとえフィクションでも耐えられないし、安易に犬のかわいらしさを強調するのは、安易に犬を飼うひとを増やすからイヤなのだ。

これは、映画を作るひと…としてではなく、犬を愛する者としての気持ちだ。とにかく、犬にとって不利になる作品は作ってほしくないと思って来た。

なので、今朝のオープニング上映が「犬もの」と知り、しかもポスターやタイトルから「ハートウォーミングな家族もの」という最も自分の苦手なジャンルではないかと悟り、ちょっとひるんだ。

ところが!

とにかく、ずっと号泣。久しぶりに泣きに泣きました。いえ、もう。とにかく、悲しくて悲しくて。でも、それが涙をお誘いしましょう…というタイプの作品ではなく、今の犬たちが抱える問題を正面から描いている。

メジャーな映画でもここまでできるんだってホントに驚いた。そして、「家族もの」「あったかい作品」としての部分も残している。

これはなかなかすごい。安易に犬愛を歌いあげるのではなく、犬の現状を知らせつつ、それでも、犬を救おうとする人間の姿をきちんと描き、同時に「犬とはなんぞや」も描いている。

あーフィクションでここまでできるんだ。自分ももっとしっかりして、ちゃんと犬の映画作り上げなきゃって、すごく励みになった。

そして、これはもう、犬をこれから飼おうとするひとには是非見てほしい映画だし、犬にかかわるひとは見るべき映画だ。

公開は来年の3月とのこと。

監督の平松さんは、山田洋次監督の助監督を20年くらいつとめてきた方だ。どの女性監督のイメージともちがう、落ち着いた物静かな方であった。



そして、原作にはなかった、平松さんのオリジナル脚本のある部分に心をつかまれた。

ネタばれになるといけないので書かないけど、自分が自分の犬を前にしていつも思うことがそのまま書かれていたんだ。ここでもう、泣きに泣きましたよ。

なくしたカナやミニを思い出して泣き、今いる、はるるとなつのことを思って泣き、ちばわんの取材で知りあったあらゆる犬、彼らを救おうとするちばわんメンバー、福島の被災犬、ロンドンのアニマルホームの犬。

あらゆる犬と人が交錯して、ずっとずっと胸がいっぱいだった。

今後、この映画を応援していきたいと思う。