4月5日に公開になった、映画「麻雀放浪記2020」を見てきました。
ピエール瀧さんが逮捕されたり、映画のなかでオリンピックの開催が中止になっているなどで物議を醸し、試写会もあまり行われない中での上映、どうなっていくのだろうという思いもあり、劇場へ行きました。
でも、おそらく、作品はその背景がどうであったかで、判断してはいけないですよね。
出演者の逮捕とか、オリンピック関連の横槍(?)とか、そういうことで見るのではない。
作品としてみないと。
まず、面白かったです。
とても刺激的でした。
映画は自由であり、映画のなかでは何が起こってもいいんだってことをあらためて思いました。
そして、白石和彌監督の作品を見ていつも思うのですが、女性の描き方がとても優しい。
優しいというか、ジェンダーバイアスがかかってないというか、見ていて、傷つかない。
「どてこ」というキャラクターが出てくるのですが、彼女は、「土手(どて)でもやらせる」からどてこ、という、普通に考えたら、痛いキャラなんですが、いや、痛いことは痛いんですが、でも、なんだろう、侮蔑の文脈がなく、見ていると彼女が好きになる。共感できるんです。
しまいには「どてこ」頑張れって思ってました。
ストーリーは、焼け野原になった戦後の東京から、麻雀好きの青年(斎藤工さん演じる坊や哲)がタイムスリップしてくるところから始まる。
2020年の東京はなにやら戦争があって、しかも負けて、オリンピックは中止になって、荒んでいる、という設定です。
そこで、哲とどてこが出会い、麻雀がからんで進んでいくわけです。
苦いコメディというか、コメディ仕立てなんですけど、「笑ってていいのか」という気分にさせられます。
坊や哲はふんどし履いて、アイドル雀士みたいになっていく。
斎藤工さんがふっきれた演技で全力投入。
フンドシ男がたくさんでてきて、匂い立つようで、いやだ。
男子の下着姿に欲情する文化はないわ、私には、と気づきました。
それはともかく、ふんどしを見つめている場合ではない。
ここで描かれた世界と大差ない世界に自分たちは住んでいて、もはや、笑っている場合ではない…と思うからです。
リドリー・スコットが
「映画とは、監督が世界をどう思っているかを描くものだ」というようなことを言っていたと記憶しておりますが、それを思い出しました。
世界は苦いコメディのような状況。
今は、1945年の戦後ではないけれど、一見豊かなこの世界、よおく見ると荒野とゆるい絶望が広がっているよなーと思えてきたのでした。
その中で、どてこの切ない存在がなんだかよかったです。
このクソ東京で生きていく女の子のある種の象徴のようで。
(こんなこというと、私は違う!ってすぐ反論されそうで、そういうのも辛い、この時代)
帰宅後、和田誠監督の「麻雀放浪記」を見直しました。
かつて見ていたはずなのに、覚えているのはラストシーンだけでして、「麻雀放浪記」のよきファンではなかったのですが、あらためてみて、なぜ自分がよきファンでなかったかがわかりました。
非常に良くできていて、出演者のみなさまの演技のすばらしく、物語も面白く、感動的なんですけれども、自分がやはり、なじめなかったのは、「賭け事」に興味がないとかそういうことではなく、「女性の描き方」と女性に対する男性の目線でした。
なかでも、鹿賀丈史さん演じる「ドサ健」と大竹しのぶさん演じる「まゆみ」の関係がとても辛い。
ギャンブルのためなら、女の家の権利書も賭けるし、女を女郎屋に売ってでも続ける、という一見、かっこいいキャラなんです、この人。
で、そのカッコいいいギャンブラーに女はついていく。たとえ、女郎になってもその男のためなら・・って。
これぞ究極の愛といういうひともいるでしょう。キムギドクの映画などにもこのような設定は出てきますよね。
これが、私はダメです。嫌です。
それはやはり愛ではないですよ、と言いたくなる。
目を覚ませーと言いたくなる。
ドサ健が、映画のなかでこんなことを言う。
「俺が迷惑をかけていいのは、お袋と俺の女、まゆみだけだ」って。
うわー。
一瞬、かっこいいように見える。
いや、全然かっこよくないでしょう。なんで、母親と彼女には迷惑かけていいんですか。
甘えるな。
「お前が殺していい人間はお前ひとりだけだ」by映画「太陽を盗んだ男」のことを思い出します。
「お前が迷惑をかけていい人間はお前だけ」だってことです。
どうしても気になる。
女性の描き方が飲み込めないと映画として飲み込めない。
(いや、この時代、女のひとは人間ではなかったから、迷惑かけてもいいことになっていたんでしょうね。
自分の女を殴って、何が悪い!っていう男がいた時代。
でも、人間じゃなくても、犬でも猫でも、殴っちゃだめですし、迷惑かけちゃだめで、そういうひとをかっこいいと空見させるのはどうしても好きになれないのでした)
こう書くと、映画に倫理持ち込むな、バカ、とかまた言われそうですが、まあ、仕方ないです。
しかし、
映画「麻雀放浪記2020」はちゃんと映画のなかで、女のひとが、生きていた。
それがとても良かったです。