山田あかねの一喜一憂日記

心に引っかかるテーマは前後の見境なく取材に行きます。映画、テレビ、本つくってます。

一度知り合ったら、別れることはない?

昨晩は、大崎善生さんの「パイロットフィッシュ」を読んだ。数年前にずいぶん、売れた本みたいだから、既読の方も多いと思う。私も名前はぼんやりと知ってはいたけど、読む機会がなんとなくなかった。なぜ、今頃、あえて読んでいるかというと、話は韓国に遡る。

昨年の秋、テレビ番組のロケで韓国に行った。そのとき取材した、F社という出版社の社長(女性で40代)が、日本の小説のなかで一番好き、といったのが、この「パイロットフィッシュ」だった。それだけだったら、もしかしたら読まなかったかもしれない。このロケでは日本の小説に関係している出版社を何社か取材し、その度に、「日本の小説で何が一番好きですか」という質問を繰り返していたので、一冊一冊はそんなに印象に残らなかったのだ。(う~ん、そうでもないか。それになりに覚えてるけど)

それはともかく、「パイロットフィッシュ」のことを覚えていたのは、その社長が、もとは漫画の原作者で、数年前、クイヨニという女子高校生作家を見いだし、大ヒットさせたという背景があったからだった。クイヨニの成功のあとは、韓国のインターネット小説をやめて、日本の10代の作家の小説ばかりを翻訳して出版するという仕事をしていた。かの綿矢りささんが、芥川賞をとる前から注目し、契約を結んでいたし、(それで、綿矢さんは、韓国ではかなりの人気のある作家になっている)日本の十代の作家で社長が「売れる!」と思ったひとは、ほとんどと契約を結んでいるのだった。

そんな社長が、契約を結んでいる、十代ではない、日本の作家が大崎さんであり、「パイロットフィッシュ」だったのだ。だから、私の記憶のなかでは、きっと、十代の作家が書くのと似たようなテイストの作品なのではないかと思っていたのだった。

しかし、全然違っていた。主人公は41歳のエロ本の編集者だし、20年前の恋愛が回想されるとはいえ、十代の作家が書く、リアルタイムの奔放な小説とはちがって、落ち着いた、大人が楽しめる小説だった。きっと、F社の社長も、商売ではなく、自分の好みでこの本を出版したのだなとしみじみ思った。

「パイロットフィッシュ」のなかで、一番印象に残ったのは、ひとは、一度別れたとしても、相手の記憶のなかでずっと生き続けるみたいなことだった。たぶん、それがテーマだと思うけど。そういえばそうだなあと思うのだった。例えば、私は離婚しているけれど、時々、ふっと結婚していた当時のことを思い出すし、思い出すだけではなく、そのひとの教えられたことを今も守っていたりする。例えば、雑誌の読み方。ひとつでもいい記事を見つけられれば、その雑誌を買った価値がある・・とそのひとはいい、たくさんの雑誌を読んでいたのだけど、そういう風に雑誌をとらえるとか。(小さいか)

あと、舞台がエロ本の編集部ということで、少し懐かしかった。私は大学生の頃、官能小説をいろんなところに連載していたので、この手の編集部の雰囲気はよくわかる。何度も行ったし。想像するよりずっと地味な仕事だし、真面目なひとも多かった。そんなわけで、かなり読み応えのある小説だった。不思議な縁を感じた。