山田あかねの一喜一憂日記

心に引っかかるテーマは前後の見境なく取材に行きます。映画、テレビ、本つくってます。

D列車でいこう。



写真は、阿川大樹さんの新刊(5月20日発売)
「D列車でいこう」(徳間書店)
著者よりいただいた。

阿川さんというのは、たいへんユニークなひとである。テレビのドキュメンタリーの主人公になりやすいひと。私は長い間、ヒューマンドキュメント的な番組をつくってきたので、「番組になりやすいひと」と「なりにくいひと」という基準でひとを見てしまう傾向がある。このひとなら、こうすれば、番組にできる。このひとはどうあっても無理だろう・・などなどと考える。職業病かな。

で、阿川さん。しかし、彼の場合は、いわゆるベタなドキュメントにするには、ちょっとハイレベルなひとではある。主人公があんまりなんでも持ってると、視聴者は嫉妬するから、感動されないのだ。少しくらい不幸な感じがあると喜ばれるんですねー。いやですねー。

阿川さんはまず、日本で一番賢いひとが集まると言われる大学の出身。学生時代には、野田秀樹さんと劇団「夢の遊眠社」を立ち上げる。遊眠社と言えば、当時の学生演劇の最先端であり、野田さんは今や演劇会の重鎮だし、遊眠社出身の役者も多い。そんな活動をしながらも、卒業後は、某一流企業に勤める。さらに転職されて、カルフォルニアのシリコンバレーに出入りし、IT産業に関わる。これもまた、最先端を突っ走ってきたことになる。このまま、成功していると、日経映像系の番組に出演可能であったろう。しかし、わが主人公はその道を選ばなかった。

40代で「小説家になろう!」と決意され、仕事をやめる。そして、99年「サントリーミステリー大賞」の優秀賞を受賞されるもの出版化にはいたらず、さらに数年後、小学館文庫小説賞で最終候補まで残り、05年に「ダイヤモンド経済小説大賞」を受賞されて、作家デビューとなるのである。

このようにさらっと書いてしまうと、「優秀なひとはなにをやっても、スイスイいくね」と思われるかもしれないけど、そんなことはない。確かに、今でもロックバンドを組んでギターをひき、バイクに乗るし、ヨットも持っているようなひとではある。ずいぶんと派手なオヤジであるけれども、99年にサントリーで受賞してから、本が出るまでに6年ある。これはねー、とってもきつい6年だと思うんです。

私も95年に文学界で賞もらってから、本でるまでに7年かかった。この期間のつらさを言ったら。才能ないのか、とか、やっても無駄なのでは・・などと逡巡しながらも書き続けるのだ。もちろん、生きていくために小説以外の仕事もしなきゃいけない。それでも書き続ける・・これって、ほんとにねえ。

そんなわけで、いろんな顔を併せ持つ阿川さんであるから、彼の書く小説が深く人生の機微を知らせてくれないはずがない。基本的に賢いから、物事の本質を言い当てるのも得意であろう。村上春樹が敬愛するレイモンド・チャンドラーが、傑作を書き始めたのは、50代を過ぎてからであった。長く生きてきたひとの書くものは、含蓄があるんだなあ。

というわけで、まだ、読んでいないんですが、阿川さんの新刊を喜びたい。地方のつぶれかけた鉄道を、二人の男とひとりの女が、立て直すお話である。前向きな著者の描く世界であるから、元気なくヨレヨレしているひとを、励ましてくれるにちがいない。応援、よろしく、です。