山田あかねの一喜一憂日記

心に引っかかるテーマは前後の見境なく取材に行きます。映画、テレビ、本つくってます。

カラマーゾフの兄弟とベストセラー

現在、夏風邪におかされながら、「カラマーゾフの兄弟」の新訳を読んでいる。それでもって、これって、ベストセラーランキングに入っているのだ。(アマゾンなどで)。

いやあ、不思議だよね。150年以上昔のロシア文学ですよ。テーマは宗教色が強いし。作者、ドストエフスキーは、名前くらい聞いたことのあるひともいると思うけど、読んだことのあるひとは、そんなにいないだろう。日本で有名なのは「罪と罰」だけど、それだって、今やそれほどの読者もいないはず。それが今、なんで、「カラマーゾフ」なのか。

この現象を解くひとつのカギ。というか、想像です。昨年の今頃(もしくはもう少し前)、朝日新聞で、若手女性作家の金原ひとみさんが、「カラマーゾフの兄弟を知人から薦められて、読み出したら、最初はよくわからなかったけど、はまった」というようなエッセイを書いていた。金原さんのファンでもあるし、自分がロシア文学出身のため、この記事は印象に残り、今時、カラマーゾフの兄弟を薦めるとはどんなひとなのだろうと想像を巡らしたことを覚えている。

それから数ヶ月後、打ち合わせをした男性編集者が、「カラマーゾフの兄弟読んだことありますか?」と聞いてきた。彼は、私が露文出身と知っていて、質問したのだ。「しかし、今頃なぜ?」と問うたところ、彼も金原ひとみさんの記事を読んでいて、興味を持ったのだと言う。なるほど。

それから、半年、気づくとベストセラーだ。もちろん、亀山郁夫さんによる読みやすい新訳のせいもあるだろう。最近、「ロンググッドバイ」はじめ、新訳で古典を読むのがはやりつつあるから。

そんなわけで、なんとなく嬉しい。自分は露文だけど、専攻はトルストイなので、実はドストエフスキーにそんなに詳しくないけど、古い友達が急に人気者になったみたいで嬉しいのだ。けどさ、このあたりのロシアの作家の小説って面白くて読み応えがあるんだよねえ。ロシアは冬が長いから、長い物語が必要だったという説もあるけど、一度読み始めると、どっぷりその世界に浸ることができる。昨今の「読みやすい」「一気に読めた」というのが褒め言葉として流通しているような、軽い小説とはちがうのだ。簡単には眠らせてくれませんよ。

トルストイは今でいう、DV男でずいぶん女にはひどいことをしたらしい。(妻を殴っていたことは有名なのね)。その罪の意識からか、それとも根本的に女性を恐れていたのか、女性を主人公に据えた傑作が多い。私がもちろん、一番好きなのは、「アンナ・カレーニナ」だ。これは、その後、ハリウッド映画にも影響を与えたんだよん。(アジアの小国のちっぽけな作家にも影響を与えたよ…って、自分ですけど)。

一方のドストエフスキーさんは、無類の博打打ちで、借金を返すために、小説を書きまくったという説もある。かように、文学者がならず者だった時代である。もはや、誰も読まなくなってしまったかと思われたロシア文学が、ここへ来て、息を吹き返すなんて。なんてすばらいいことなんだ。

この現象に力を得て、連載させてもらっているファッション誌「MISS」の小説おすすめ記事(来月号の掲載かな)に、「アンナ・カレーニナ」のこと書いてしまった。来年の今頃、「アンナ・カレーニナ」がベストセラーに入っていたら、ものすごく嬉しいんだけどな。