山田あかねの一喜一憂日記

心に引っかかるテーマは前後の見境なく取材に行きます。映画、テレビ、本つくってます。

差し入れ道

今日は、自分が脚本を担当した映像作品の現場に行きました。

ロケセットは渋谷のクラブです。店にはエキストラも合わせて、若者たちがわんさか。昼間っから、大音響のなか、踊っておりました。(って、撮影しているから当然なんだけど)。

で、そういうときは差し入れを持って行きます。この「差し入れ」というのが、案外むずかしい。以前、真夏のロケ現場で、やはり自分が脚本を担当したドラマのロケがありました。監督もプロデューサーも長年の友人。暑かったので、50人分くらいのアイスクリームを購入し、うちにあるクーラーボックスに保冷剤をいれて、自ら運転して、現場に行きました。

「アイスクリーム持ってきた!」
喜んでもらえると思ったのに、プロデューサーの顔が曇ります。ようするに、他からもアイスが来ていて、スタッフがノルマのようにしてアイスを食べているのです。ものすごい暑い日だったので、クーラーボックスに入っているとはいえ、どんどん溶けていき、かなり危険な状態になっているんですねー。

苦労してもっていったのに、目前で溶け続けるアイスを見ながら、ひとこと電話で聞けばよかったと後悔したのでした。とはいえ、私はそれほど「差し入れ」をする立場ではありませんから、「差し入れ道」にうといわけです。このような失敗がないように、今回は、友人のプロデューサーで、差し入れの達人の異名をとる師匠(差し入れに命を賭けて30年!)に前日に電話しました。

すると、「そもそも、前日に考えるのでは遅い!」と叱られました。真の差し入れとは、もっと前から準備して初めてかなうものだそうです。めずらしいお菓子やちょっとしたお寿司など、事前に注文しないといけないですもんねー。

「差し入れ道の達人」の講義は続きます。「まず、誰のための差し入れなのか」。スタッフをねぎらうものなのか、特定の俳優さんなり監督なりを喜ばせたいのか、それによって、選ぶものが違うとおっしゃいます。
「へっへえ、そうでござんすか…。一応、スタッフ全員系です」と丁稚のような気持ちで答えると、師匠は
「ふむ、目的はわかった。次は、場所と時間と天気だな」と仰る。

「へえ。場所は渋谷でござんす。時間は昼頃、到着したいです」
「ふむ。わかった。ならば、渋谷で購入しなさい。意外に渋谷は差し入れ食品が充実しておるわい。わしの場合、日本橋などもよく利用する。しかし、ィまえのような、早起きのできないやつに、日本橋のさしいれは無理だな。まあ、現場が渋谷でよかったのう」
「へえ、では、渋谷のどこでなにを買ったらよいのでしょう」

すると、師匠は、次々と店と食べものの例を挙げ続けます。洋菓子あり和菓子あり、パンあり、お寿司あり、フルーツあり…。西武より東急東横店が充実しているだの、東急とはいえ、本店はダメだの…あんた、デパ地下博士かい、というほどの知識です。どんなことにもプロっているなあと感心、感心。割と早い時点で、師匠が推薦してくれたシュークリームに決めたのですが、師匠、話をやめません。
「そういや、今の時期なら、栗関係もよいぞ」だの「甘いものは重なることがあるので、そこのところはどうする?」だの、「明日は暑いから、保冷剤2時間分は必ず頼め」だの講義は続くのです。
「だから、その、シュークリームでいいです」と私が言っているのに、「本当にそれでいいのか。プリンもいいぞ。ただなめらかプリンよりしっかりプリンが今は主流じゃ。シュークリームは万人受けするとはいえ、今の最先端は、エクレアなのだ。はっはっは」

そんなわけで、師匠の教え通り、注文し、保冷剤2時間入れて、無事差し入れすることができました。いやあ、本にしてほしいよなあ。「差し入れ道」。でも、テレビ・映画業界のひとしか買わないから、あまり意味ないかなー。しかも流行は時々刻々変わるからなー。

でもって、逆の立場を考えてみたんです。自分が監督をするとき、差し入れをいただくこともあります。が、正直なところ、差し入れを楽しんだ記憶があんまりないんですねー。自分が監督するときって、だいたい、気分がギリギリなもんですから、心に余裕がなく、いただいたお菓子を和んで食べる…暇ないんだよなー。とほほ。

そんなわけで、差し入れ小話でした?