山田あかねの一喜一憂日記

心に引っかかるテーマは前後の見境なく取材に行きます。映画、テレビ、本つくってます。

舞台「29時」

新宿シアタートップスにて、自転車キンクリートの「29時」を見て来た。

いや~なかなか笑えない芝居だった。いや、中身は面白かったので、ところどころで笑わせてもらったけど、テーマがけっこう、キツイというか痛い。笑ったあとで、笑えないなーと思った。

主人公は40代半ばの独身女性。アマチュアのアニメ作家である。服装や暮らしぶりや言動から、あきらかに「もてない」タイプの女性である。その彼女が、知り合いの結婚式のためにお祝いアニメを作るところから物語が始まる。彼女の手伝いに、30代(と思われる)既婚・子供ありの男と、20代の、イラストも描けるし、音楽もできるけど、特に何をしているかわからない男子がやってくる。彼女の部屋には、すでに、彼女の昔からの友人の男(40代)がいて、近くの部屋を盗撮している。(パパラッチのような仕事をしているのだ)。状況としては、男三名と女ひとり。しかし、この男たちはみんな彼女を最初から女として見ていない。

(以下、ネタばれありです)。

このような状況で物語が始まり、主人公の女性が、実は一度も男性とつきあったことがなく、男性経験もないことがわかる。つまりバージンである。そんな彼女であるが、知り合い=実は片思いの男が結婚するとしって、悩み苦しみ暴走する。結婚式を壊しに行こうと考えたり、まず、バージンを捨てようとしたりする。ううむ、その必死さ、そのリアルさにひるんだ。

三人の男も、三ようにおかしなことになっているけど、それでも、女性の痛みには遠い。彼女は、自分の人生、これでよかったのか…と突然、深い闇にはまるのである。それを解決する手助けをしようと、三人の男たちは、考えるのだけど、当然、わかりやすい答えも救いもない。…ないように見える。

『自転車キンクリート」という劇団は、ずっと、「恋愛」まわり、男女まわりのこと、悩みとか不条理さとかを多く描いてきたように思う。が、ここへ来て、恋愛ゼロだった40代半ばの女性の今を切り取っている。「恋愛できない、しないひとがいたんだ!」という発見である。これは、最近、自分も同じように発見したことだったので、なおさら、驚いたのだ。その符合に。びっくりしてしまった。そのリアルさに。

恋愛や結婚を経た40代の物語より、そういうことの少なかったひとの40代のほうが、新鮮で面白い。(テーマとして)。もちろん、50年前なら、恋愛しないひとは多数派だったろうし、恋愛しないまま、40代を迎えても、悩みとして浮上しにくかったかもしれない。「行かず後家」などと言われ、本人も自嘲するか諦めるかしたんじゃないだろうか。ところが、21世紀はそんなに簡単に人生を終わらせてくれないようだ。

芝居のなかで、彼女がそれぞれの男と結ばれるシーンの妄想がある。既婚者の30代の男、長年友達だった40代の男とのラブシーン(妄想だけど…)は、普通に見られたけど、20代の美形の少年とのラブシーンは結構ドキドキした。この少年が実は、デリヘルというか、身体を売っているのであるが、彼女が彼を買った…という設定のもと、ふたりのラブシーンが始まる。

いかにもそうかもしれないという始まり方で、ホスト(みたいな少年)はカクテルをグラスにつぎ、彼女を見つめちゃったりする。で、青山テルマの曲が鳴り響くなか、手をとり、やさしいキスをして、そういう方向へ進んでいくのだ。なんか、すごく照れた。他の2つには反応しなかったけど、ドキドキしたなー。なんでだろうと自分にしみじみ問うと、やはりそれは、かような少年を買うという行為を自分がやったことがないからだろうなーと思った。それ見て、照れて喜んでいる自分もどーかと思ったけど(笑)。

そんなわけで、辛らつでありながら、恋愛とは、結婚とは…ということをあらためて問い直させるような舞台だった。よくできていて楽しかった。ただ、ラスト、彼女がどこへたどり着いたのか…それを知りたかったような気がする。人生はまだまだ続くのだ…。