山田あかねの一喜一憂日記

心に引っかかるテーマは前後の見境なく取材に行きます。映画、テレビ、本つくってます。

映画「告白」と母性神話。

今日は、数日前に見た映画「告白」の感想を書きます。

ネタばれとかあまり考えてないので、なるべく、ないようにしますが、自信がないので、あしからずご了承ください。

大ヒット中の映画でありますし、友人の監督も「傑作!」と言っていましたが、一方で、「リアリティがない」「救いがない」という意見も聞き及び、賛否両論の渦のなか(基本、「賛」が多いんですけど)、見に出かけました。

いや~とても「濃い」作品でした。「濃い」っていうのは、密度が濃いってことです。

まず、音。ほとんど全編にわたって、音楽が流れています。それも背景として流れるというより、めいっぱい聞かせるような音量で、しかも、歌ありの非常に感情を揺さぶるような曲がいろいろ流れます。それだけでも充分濃いです。

そして、映像。これもまた、密度が高い。普通に撮影しただけでは決してとらえることのできない映像世界が次々に出てきます。緻密に計算された照明とカメラワークと編集時で加えられたであろうエフェクトによって、層の厚い映像ができあがっています。

そして、ストーリー。これは「濃い」っていうより、なんだろう、ある種強烈です。これらの「濃い」要素が重なって、最初から最後まで、非常に濃密な時間が流れます。目を離す隙がない。

なので、傑作と言われる理由がよくわかります。なかなかお目にかかることのできない作品です。どこをとっても練りに練り上げられている感じがしました。

一方で、救いがない、リアリティがない…というひとの気持ちもわかりました。内容が劇画的であって、最後に「救い」を用意していないからです。心優しいひとは傷つくのかもしれない。

そして、わたしが一番感じたことは、この作品の根底に流れるものについてでした。この物語は、子供を殺された母親と、母親に捨てられた子供の闘いのように感じました。母親に捨てられた子供は、母の愛情を知らずに育ったあまり、寂しさにとらえられ、他人の子供を殺害してしまうのでした。子供を殺された母親は、その喪失感ゆえ、復讐に燃えるのでした。

ちょっとゆらぎました。「母性神話」を強化する作品だなあと思ったからでした。

つまり、子供を思う母の気持ちは海より深く、母を思う子供の気持ちも、同じくらい深い。この世で一番、強烈な思いとは、「母への思い」である。…みたいな。というのは…

子供を殺されてしまう母親は教師ですが、子供をきちんと預けることができなかったために、事件に巻き込まれてしまいます。殺人者の少年も、母親が子育てより、自己実現(=研究者としての仕事)を選んだために、見捨てられます。その結果、悲惨な殺人事件が起こります。

簡単に予想される感想は、「やっぱり、子供は母親がちゃんと育てないと…」です。子供をあずけて働く母親は、自分の子供が殺される危険にさらされるか、あるいは、殺人者に育つか、その両方を心配しないといけなくなります。

そういう風に思わせてしまってはいけない。悪いのは母親ではない。優秀なベビーシッターの不在、もしくは、保育所の不在です。もし、彼女たちが優秀で信頼できるベビーシッターか保育所を利用することができたら、こんな事件は起こらないんです。

母親不在、やっぱり、母が大切…という母性神話の強化につなげちゃいやだなーと思いました。

少し前に見た、アメリカ映画「SEX AND THE CITY2」では、(前にも書きましたけど)、幼い子供を持ち、仕事もしている母親が二人出てきます。彼女たちは、「ベビーシッターなしで、子育てしている女性に、乾杯!」と言ってエールを送ります。それほど、子育てはたったひとりで働きながらするには、たいへんなことらしいです。

けれども、日本では、「母性神話」ってものすごく強いから、「母強し」の作品はヒットしやすいんだろうなー。

そんなわけで、作品としては、非常によくできたものだと深く感心しておりますけれども、母親神話の強化につながりそうな部分だけ、ちょっとひるみました。

映画のなかでは、岡田将生さん演じる、熱血教師がすごく良かったです。この方、ハンサムだけじゃなくて、芝居、うまいんだなあーとしみじみ思いました。できれば、自分のがんばりが全然生徒に通じていなかったことを知ったあとの顔も見たかった。どんな表情になっていたのか。愕然としていたのか、呆然だったのか、その演技を見たかったです。

あと、感じたことは、やはり、コマーシャル出身の監督の作った作品だなと思ったこと。CMって、15秒とか30秒だから、1秒と数えずに、30フレームと数える(1秒=30フレーム)って、聞いたことがありますけど、短いからこそ、一枚一枚の絵を丁寧に作るんだと思います。音楽にしても、15秒しか流せないから、非常に敏感になる。

なんでそんなことを感じたかといえば、やっぱり自分がテレビのひとだからです。自分は長い間、テレビを作ってきたから、作品の密度がたぶん、CMのひとと違んです。予算も時間のかけ方もテレビとCMでは全然違う。テレビは、もっとざっくり、手軽に早く作る、消費されるメディアなんですね。その手法が知らずに自分に身に付いている。つめが甘いと言われたらそれまでだけど、その代わり、安い予算、短い期間で、多くのひとが楽しめるものをさっと作ることができるんですよ。

……なんてことも考えました。映像作品になると、自分、やっぱりテレビっぽさがでるなーって思って。(小説は別です!)

というわけで、横道にそれましたが、「告白」の感想でございました。