山田あかねの一喜一憂日記

心に引っかかるテーマは前後の見境なく取材に行きます。映画、テレビ、本つくってます。

舞台「ザ・シェイプ・オブ・シングス」

今日は、青山円形劇場にて、翻訳劇「ザ・シェイプ・オブ・シングス」を見て来た。

演出はポツドールの奇才、三浦大輔さん。脚本は、アメリカで映画監督もしているニール・ラピュートさんという脚本家による、01年初演の問題作。

さらに主演は今をときめく、ゲゲゲの亭主、向井理さん。

いやー劇場は、女性であふれかえっておりました。それも、ふだんポツドールの舞台とかじゃ、絶対見かけないような感じの女子ばかり。

金曜の夜なのに、バレンタイン間近なのに、「他の男に興味ねー。向井理と結婚できるなら、貧乏してもいいわ…」って感じの女性が多かったです。(気持ちはよくわかります)。

けど、ちょっと不安でした。だって、あのポツドールですよ。

舞台の上で裸でからみあったり、性的な言葉飛び交ったり、「いいひと」とか、「心温まる結末」とか、「涙の感動」とか、「やさしい日常」とか、「少しだけ前進」とか、絶対、まったく出てこないはずです。

向井さんを見に来た女性たちは大丈夫なのか。どういうリアクションをするのか。私が心配することじゃないですが、勝手にドキドキしてました。

始まりはぐっと静かでした。美術館で男と女が出会う。ちょっとゆっくりしたペースですが、翻訳劇っぽくて、ある意味安全でした。

けど。

舞台背景は、ギリシア彫刻を思わせる全裸の男性です。しかも、男性の股間にはあとづけのような「葉っぱ」が被されています。おーやっぱり。ただの翻訳劇のはずがない。

そんなわけで、この股間にからんだテーマになってきたあたりから、「え?なにコレ?」って空気が客席に流れていたような気がします。見たことないものを見たときに、ひとが出す空気みたいなものを感じました。

とはいえ、他のお客さんの反応を見にいったわけではありません。見るのは舞台の上の出来事です。

そして、いやー久しぶりにしてやられました。おお、そうくるのか…と。

セリフのやりとりが自分の好きなタイプの芝居でした。つまり、リアルな日常的な会話というより、ちょっと理屈っぽいというか。普通の日本人ならそんな話し方しない…ってタイプの。

オスカー・ワイルドはみんなが理解できる芸術なんてない、って言ってるわ…とかって言葉が飛び交うわけです。

ラブですね。いえ、こういうセリフ・ラブですって意味です。

理屈っぽいのが好き。

向井理さんは、最初、冴えない、太った、モテない男として登場します。この男が、ひとりの女性との出会いによって、どんどん変わっていく様子を描いています。

こう、書くと、恋によって、きれいに変身する物語に思われがちですが、いや、実際、そうなんですが、でも、ちがいます。

え、なんだって?

いやーびっくりする結末が待っているわけです。それはさすがにココに書きませんけどね。

自分の想像力ではなかなか思いつけない、展開でした。ハイジャンプしてます。

それがまた、単なるこけおどしではなく、最初のシーンとしっかりと結びついた、この芝居の大きなテーマをあらわすものなんですね。

ざっくりと芸術ってなんだ、芸術はどこまでゆるされるのか…とか。

物語の途中で、川村ゆきえさん演じる普通の女性が、発するセリフが印象的でした。

普通の女性が、アーティストである女性に問いかけます。

「私、なにか、あなたに悪いことした?そのせいで、あなたは私にこんな意地悪をするんでしょう。もし、なにか私が悪いことをしたんなら謝るわ。けど、私は普通の女なの。あなたみたいにアーティストじゃないの。だから、あなたのすることがわからないの」

だいたいこのような主旨のことを言うわけです。(注・私の記憶によるので、間違っている可能性もあるのですみません)

ここでも、「芸術」ってことが問いかけられているわけです。あるいは、芸術なんかいらない。それより、普通がいい。慣れ親しんだ世界がいいって言っているようにきこえます。

ある種の芸術は、普通のひとを傷つけます。見たくない真実をつきつけられることになるからです。知りたくもないことを知らされて、不安になるわけです。

そして、そんな真実を知ったところで、それだけのことです。なんの得もない。だったら、そんな真実知りたくない。時間の無駄…と思うかもしれません。

そしてさらに、そもそもそれは芸術なのか、だいたい芸術ってなにか、その目的はなにかってことです。

えーい、ぐるぐるしてきて、わからなくなりますよね。この問いかけがいいんです。しびれるテーマなんです。

…なにを書いているかわからないですよね。すみません。中身をばらさずに書くのは難しいですね。

というわけで、刺激的な舞台でした。映画にもなっているみたいなので、DVDを求めようと思います。

すぐれた脚本でありました。