今年78歳になる、ポーランド人の名匠、ロマン・ポランスキー監督の久しぶりの作品。
ポランスキーは「戦場のピアニスト」が有名ですが、個人的には、「赤い航路」が一番好きです。
この監督の作品は、わかりやすい家族愛や男女の愛などには、決してたどり着かず、どの作品も、苦いものを噛みしめたあとのような気持ちになります。
だから、好きってところもありますが、なかでも、「赤い航路」は、究極の男女の愛がいきつくところを、無残に描いていて素敵でした。
決して、「永遠の愛」などにはゆきつかせないんですね。
…ということで、本題の「ゴースト・ライター」に話を戻します。
ゴーストライターというのは、愛しているひとが幽霊になって戻ってきて、恋文を書く……ということではありません。
(そういう話がありそうで、怖いですけど…)
ゴーストってつくと、わりかと気持ちの悪いものを想像しがちですが、これはクールなほうです。
つまり、誰かの代わりになにかを書くひとのことですね。
この映画の主人公は、作家を目指しながらも、ゴーストライターの仕事もしています。文章は書けないけど、自伝などを書きたい有名人のために、代筆をする仕事です。
で、この主人公…と書いていて、名前が思い出せない。イケメン俳優、ユアン・マクレガーが演じているのですが、えーと、なんだっけ?主役のなのに名前が…。
いよいよぼけたのかと心配になり、いろいろ調べましたが、なんと、このひと、映画のなかでも「名前がない」んですね。
「ゴースト」とか呼ばれちゃってる。とことん、名前のない陰の存在なんですね。
で、このゴーストが、元のイギリスの首相の自伝を書くことになります。なんと2万5千ドルのお仕事ですよ。
…と書いて不思議。イギリスだから、ポンドのはず。2万五千ポンドだったかもしれません。
ま、どっちでもいいや。とにかく、高額のギャラによって、最初は乗る気じゃなかったけど、引き受けることになります。
で、取材のため、元首相が隠れているアメリカの東海岸の島にやってきます。
彼の前任者は、なんと亡くなっているんですね。事故か自殺…と言われてますけど、どうも、怪しい雰囲気。
元首相の周りには怪しいひとばかり。というか、首相自身もなんだか、怪しい。
この首相の秘書を、セックスアンドシティのサマンサこと、キム・キャトルが演じています。
特にエロいシーンはないんですけど、いかにもな「秘書ファッション」…つまり、白いブラウスにぴちぴちのタイトスカートにハイヒールで、「もしかしたら、首相の愛人かも…」と思わせます。
エロスの記号って、かなり世界共通なんだなーといまさら思いました。
…というより、日本のエロスの記号ってすっかり、欧米化したってことなのかな。
まあ、このテーマは今は深堀りしないでおきましょう。いつか、考えることにして、本題。
で、まあ、イケメンゴーストライターは、首相の取材を続けますが、同時期にその首相のスキャンダルが発覚します。
スキャンダルっていうのかな。首相就任時代に、テロリストの拷問に手を貸した…とかなんとか。
まあ、そんな危険な状態のなかで、ゴーストは、前任者の死の謎と、首相に対するある疑惑をつかんで、ライターじゃなくて、探偵のような動きを始めます。
そのうち、彼自身も危険な目にあうようになり……いったい、敵は誰?
…というような、手に汗握る、テンポのいいサスペンスドラマに仕上がっています。
なぞめいた人物と出来事と舞台設定(取材に行く島が暗く寒そうで不吉)の三重奏で、これでもか…と見せてくれます。
たぶん、サスペンスの王道でしょう。よくできている…ような気がします。
そういう意味では充分楽しめましたけど、でも、なんというか、普段から、「ふつうのサスペンス」にあまり興味がない身としては、ちょっと物足りなかったです。
もうひとつ、ポランスキーらしい、ちょっとへんなところがあったらいいのになーと思いました。
でも、ラストはちゃんとポランスキー節でしたので、ご安心を…って誰に言ってるんだ?
それにしても、ゴースト・ライターとは悲しい存在なのかもしれません。
誰かの変わりに、誰かの物語を書くのですから。
自分の匂いを消しつつ…。
でも、そこにほんのわずかでも、自分が知りえた真実を織り込もうとするのが、書き手の心意気でありましょう。
それによって、窮地に立たされることになるとしても…。
…などと書いているうちに、名前をクレジットされても、「ゴーストライター」みたいな仕事は結構ありますよね。
プロデューサー主導の脚本とかね、案外、「まとめて書くひと」ってだけの場合もありますし、書き手の主義主張より、
「受け」が重視される、市場原理社会でありますから。
そういう意味では、誰もが誰かの「ゴースト・ライター」なんではないでしょうか…、
などと、つまらない比ゆを言ってみました。嘘です。
映画は、はらはらどきどきの2時間をお求めの方にはぴったりです。
あと、暗い東海岸の海や、モダンアートみたいな家とか、イギリス風(?)のきつめのセリフの応戦とかを充分堪能できます。
大人のデートムービー…かもしれません。
それでも、ポランスキーは好き。